ここ数ヵ月で警察官によって無実の黒人が殺害される事件が立て続けに起き、さらにその警察官の多くが処罰を受けていないことで、黒人の命にも価値があると訴える「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)」運動が各地で発生している。(フロントロウ編集部)

ブラック・ライヴズ・マター、デモ激化のきっかけ

 アメリカで2月に25歳の黒人青年アマード・アーベリーがジョギング中に元警察官の白人である父とその息子に射殺され、彼らが逮捕されるまでに2ヵ月半もかかり、さらにその後3月には26歳のブリアンナ・テイラーが、そして5月には38歳のトニー・マックデイドと46歳のジョージ・フロイドが、警察に殺された。

 左から、ジョージ・フロイド、アマード・アーベリー、ブリアンナ・テイラー。

 トニー・マックデイド。

 とくに、白人警官が武器も持たない丸腰のフロイド氏の首を脚で約9分間も押さえつけ、反応がなくなった後も約3分間そのままの状態でいた様子は動画に残されており、フロイド氏が「息ができない」と訴える姿を映した動画はインターネット上で拡散され、5月の終わりから多くの人が怒りの声をあげてデモに参加。

 フロイド氏の事件が起きた米ミネソタ州ミネアポリスを中心に、全米各地で参加者数万人規模の抗議デモが発生し、29日にはミネソタ州のティム・ウォルツ知事が全州兵1万3000人を事態の鎮静化のために動員する方針を示し、少なくとも25の都市で外出禁止令が出された。

 インディアナ州では、警察による発砲で1人が死亡し2人が負傷。ミシガン州では、抗議デモ中に何者かが発砲し、それによって1人が死亡した。

 ニューヨークで、突然拳銃を振りかざした警察官。

 今回は、週末に起きた全米での大規模なデモより、各地で目撃されたできごとを紹介する。


現場にいた白人警官が白人至上主義のポーズを取る

 ニューヨークでの抗議活動は過去最大級と言われ、警察は催涙ガスを使用。数百人が逮捕されたと見られている。そんななか、ニューヨーク中心部のユニオン・スクエアである警察官が、信じられない行動をしていたところが映像に収められた。

「ユニオン・スクエアでのプロテストを見ていたら、この警察官が“ホワイト・パワー”のハンドサインをしてるのを見た。安全にいて。この警察官たちは怪物だ」

 White Power(白人の力)とは、その名のとおり、白人至上主義の人種差別主義者が使うハンドサイン。中指・薬指・小指を立てたまま、親指と人差し指を丸くし、ホワイト・パワーの頭文字であるWとPを表すもの。何人もの黒人が白人警官によって殺され、人々がそれに抗議するなか、権力を有する白人警官がこのような人種差別的な行為することは言語道断。

 このツイートは広く拡散され、ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズ氏が投稿者に、この一件を通報したうえで、彼女のオフィスへ動画を送るよう呼びかけている。


バスの運転手が運転を拒否

 過去最大規模となったニューヨークでの抗議デモでは、数百人のデモ参加者が逮捕されたため、ニューヨーク警察はニューヨーク・シティ・バスを逮捕者の輸送車として使用するよう要請。しかし、バスの運転手はこれを拒否。沿道にいた多くの人々から拍手喝采を浴びた。

 その後、TWU(全米運輸労働組合)は声明を発表。運転手の行動を肯定し、警察に堂々とノーを突きつけた。

「TWUの運転手たちは、ニューヨーク警察のために働いていません。我々は、ニューヨークに住む家族たちを移動させているのです。すべてのTWUの運転手たちは、逮捕されたデモ参加者の輸送を拒否すべきです」


騒ぎに便乗して暴徒化する白人

 ミネソタ州のティム・ウォルツ州知事は、一部の暴徒はフロイド氏の死と関係のないものとなっていると記者会見で述べた。しかしそういった暴徒になっているのは、実際に当事者である黒人だけでなく、白人も含まれている。

 一部地域では、白人の集団が建物を破壊し、それを黒人の女性が止めようと叫んでいる姿が目撃された。

「この動画を見て心が痛い。彼らの原動力がなんなのか、この白人たちを誰がまとめているのか分からない。とにかく、彼らは私達(黒人コミュニティ)のことを気にしているわけじゃない。1人の女性が泣き出しそうになっているのに、彼らは見ることすらしない」


白人保安官がデモに参加

 多くの警察官が、抗議デモを鎮圧するために動員されるなか、黒人コミュニティとともにデモに参加した保安官もいる。ミシガン州ジェネシー郡のクリストファー・スワンソン保安官と彼のチームは、デモ参加者の前で「本当にあなたたちと共にいたいので、ヘルメットを取り、警棒を置きました」と呼びかけた。彼を前にした群衆は、「Walk with us!(私達とともに歩いて)」と叫ぶと、スワンソン保安官はデモに参加した。スワンソン保安官はフェイスブックで、フロイド氏の殺害に関わった警察官全員の逮捕と起訴を求めている。

 「Walk with us」は各地で目撃されており、ジョージア州サバンナでも、白人警官が抗議デモとともに歩いている様子がカメラに収められた。

 また、警察がデモに参加はしないにせよ、バリケードを作っていた警察が膝をついて黒人コミュニティに敬意を表したところも目撃された。膝をつく行為は、アメリカ国内における黒人に対する差別に抗議するために、主に多くのスポーツ選手が国歌斉唱の際に行なう平和的デモンストレーションとして知られ、警察官たちの敬意を受け取ったデモ参加者からは歓声があがった。


CNNのカメラ襲撃

 フロイド氏殺害事件が起きた場所である米ミネソタ州ミネアポリスでの抗議デモを報道していたアメリカの大手メディアであるCNNの記者、カメラマン、プロデューサーの3名が、警察に一時逮捕された。これは報道の自由を明らかに侵害するものとして、CNNは州政府を厳しい口調で叱責。

「CNNのリポーターとプロダクションチームが、今朝ミネアポリスにおいて彼らの仕事をしていた際に、身元を証明したにもかかわらず逮捕されました。これは憲法修正第1条を明らかに侵害している。州知事を含むミネアポリス当局は、3名のCNN職員をただちに解放しなければならない」

 CNNのカメラは、現場で警察官に直接狙われるという衝撃的な映像も押さえた。

 その後3名は解放され、ティム・ウォルツ知事は謝罪した。


白人女性が列になり黒人を守る

 ケンタッキー州ルイビルは、警察に殺害された26歳の救急救命士ブリアンナ・テイラーが住んでいた場所。警察が“間違えて”彼女と彼女の恋人が住む家に突入し、彼女に向かって少なくとも8回発砲した。この時警察が追っていた人物は、すでに拘束されていた。

 あまりに理不尽な彼女の死に関わった3人の警察官は逮捕されておらず、部署異動になっている。そんなテイラー氏のためには、白人女性たちが横に並んで腕を組み、身体をはってデモ隊の前に人の壁を作り、黒人コミュニティのために行動した。

「黒人のデモ参加者と警察の間で、白人がバリアを作っている。これが愛。これが、特権を使ってするべきこと」


迷子になった警察官を黒人が守る

 ケンタッキー州のルイビルでは、1人の警察官が隊からはぐれるという出来事も。デモ参加者と警察は対立関係になりやすいため危険な状態。しかし一部の黒人が警官の前に人の壁を作り、彼を守った。


街を自主的に清掃する市民たち

各地で数万人規模のデモ行進が起こったともなれば、人が過ぎ去ったあとの街にはゴミがたくさん。しかし各地の住民が自主的に清掃活動を行なった。国土が広いアメリカでは各地域の話題性も大きいけれど、デモ行進を含めて、多くの出来事は比較的平和に行なわれたと感じるアメリカ在住の市民も多いよう。

画像: 街を自主的に清掃する市民たち

「大規模で平和なプロテストが再び起きた。暴力は注目されやすいよね。でも今日のアメリカの大部分では、こんな感じだったよ」


アメリカ国外でも各国でプロテスト

 アメリカでの白人至上主義と黒人差別はひどいとはいえ、黒人コミュニティは世界中に存在している。週末にはアメリカだけでなく、イギリス、ドイツ、ニュージーランド、デンマークなど、各国でBlack Lives Matterのプロテストが行なわれた。

画像: イギリスで行なわれたプロテスト。

イギリスで行なわれたプロテスト。

 ドイツのベルリンにあるアメリカ大使館の前で行なわれたプロテスト。

 ニュージーランドで行なわれたデモ行進。

 デンマークで行なわれたデモ行進。

(フロントロウ編集部)

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