“兄弟”のためにショートムービーを公開
映画『マルコムX』、『セントアンナの奇跡』そして『ブラック・クランズマン』といった、黒人史に関連する映画を数多く世に送り出してきたオスカー監督のスパイク・リーが、ショートムービーを公開した。
タイトルは、『3兄弟―ラジオ・ラヒーム、エリック・ガーナー、そしてジョージ・フロイド』。
※映像の視聴にはご注意ください。
この映像では、実際に白人警官に殺された黒人のエリック・ガーナーとジョージ・フロイドのその時の様子と、リー監督による映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』の映像を組み合わせている。
スパイク・リー監督、怒りをあらわに
2020年5月に、武器も持たず丸腰のフロイド氏が白人警察官に首をおさえられ死亡した事件をきっかけに、現在アメリカでは、黒人の命にも価値があると訴えるBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)運動が加速している。残念なことに、白人警官によって無実で無抵抗の黒人が殺されるのはこれが初めてではなく、過去に何度も同じような事件が起きている。
リー監督が今回の映像に使用した映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』が公開されたのは、なんと今から31年前の1989年。この時すでに問題となっていた黒人の命を絶つという問題が、今なお頻繁に起こっていることに、リー監督は怒りを隠さない。動画の始めにも、「歴史は繰り返すことを止めないのか?」と赤い文字を映した監督は、米『CNN Tonight(原題)』に出演しその思いをこう語った。
「私達はこれを何度も、何度も、何度も見ています。問題なんですよ。黒い身体を殺すこと、その上にこの国は建てられてるんだ」
「息ができない」
2014年に白人警官に殺されたガーナー氏は、ショートムービーでも確認できるように、警察と口論になった後、警察官が彼の首や頭、胸を乱暴に押さえつけたことで窒息死。現場に警察は、ガーナー氏には息があったと主張し、救急隊が来るまで彼に蘇生処置を施さなかった。
しかしガーナー氏を死に至らしめた警察官は起訴されず、ガーナー氏の家族がニューヨーク市警と、現場にいた6人の警察官を相手取り裁判を起こした。この裁判は最終的に示談となった。また、警察官らは懲戒免職にすらなかったけれど、事件発生から5年後の2019年に、ガーナー氏に絞め技を使った警察官1人が解雇となった。
アメリカでは、2月から5月の間にすでに3人の黒人の命が白人警官によって奪われている。
フロイド氏の首に脚を乗せ続けて彼を殺害した警察官は懲戒免職となり、第3級殺人と第2級故殺に問われている。しかし動画でも分かるとおり、現場に居合わせた人々がフロイド氏の命が危ないことに気がつき脚をどけるよう叫んでも、他の警察官も対応することなく市民を制止している。その背景もあり、現場にいた警察官全員の責任を追及することを求める声は多い。
ガーナー氏もフロイド氏も、その死に際に「息ができない」と口にしている。黒人差別社会で生きることそのものの苦しさを表したような彼らの言葉は、デモ行進でも多くの参加者が掲げ、差別撤廃を呼びかけている。(フロントロウ編集部)