チャドウィック・ボーズマンは正真正銘の「いい人」 元書店員が明かす
マーベル映画『ブラックパンサー』でスーパーヒーローのブラックパンサーこと、架空の王国ワカンダを統治する若き王を演じたほか、そのほかにも歴史上に名を残す偉人たちの伝記映画などに主演し、人々から尊敬されるキャラクターたちに息を吹き込んできた俳優のチャドウィック・ボーズマン(享年43歳)。
彼が映画で演じたヒーローたちと同様、いかに素晴らしい人格と類稀なる才能の持ち主だったかは、『ブラックパンサー』やマーベル作品の共演者をはじめとする数多くのセレブたちが寄せた追悼メッセージを見れば歴然。
そんなチャドウィックが、実生活でも、ごく自然にヒーローのような行動に出ていたことが、とある元書店員の証言により明らかになった。
カリフォルニア州ロサンゼルス市内にある、映画や演劇に特化した書店「サミュエル・フレンチ・シアター&フィルム・ブックショップ(Samuel French Theatre & Film Bookshop)」に以前勤務していたというトレバー・リースという男性は、チャドウィックの訃報を受け、俳優向けの脚本なども販売している同店をチャドウィックが訪れた際の逸話をツイッターを通じてシェアした。
「僕は、以前サミュエル・フレンチ・フィルム&ブックショップで働いていた頃、幸運にも、チャドウィック・ボーズマンに出会ったことがあります。店にやって来たチャドウィックは、注目を集めようとすることもなく、ただ、新しい脚本を何冊か探していました。しかし、20代のある若い俳優が彼に近づき、声をかけました。
30分経っても、彼らはまだ話し込んでいました。チャドウィックは時間をかけて若者にアドバイスをし、映画業界において黒人であるということはどういうことなのか、どんな風にキャリアを切り開いていくべきなのかについて説明していたのです。若者はチャドウィックにお礼を告げ、本探しに戻りました。
会計カウンターにやってきたチャドウィックは、自身が見つけた脚本を数冊購入しました。しかし、彼の手には、それとは別にもう数冊の本がありました。それらの本は、チャドウィックがさっきまで話していた若者に薦めた本でした。会計を済ませ、僕にそれらの本を若者に渡して欲しいと託したチャドウィックは、そのまま店を後にしました。
チャドウィックは、感謝など求めていませんでした。彼は、ただ、あの若者にキャリアを前進させるうえで必要なリソースへのアクセスを与え、そっと背中を押そうとしていたのです。
チャドウィック・ボーズマンは、ワカンダの王でした。彼はジェームス・ブラウンでありジャッキー・ロビンソンでした(※)。でも、それより何より、彼は“いい人”でした。
※チャドウィックは、2014年にアメリカで公開された映画『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』で、今は亡き音楽界のレジェンド、ジェーム・ブラウンを演じ、2013年の映画『42〜世界を変えた男〜』では、史上初の黒人メジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを演じた。
同じタイミングで店を訪れた、役者として成功することを夢見ている見ず知らずの若者に親身になってアドバイスをし、しかも、その若者に薦めた本の会計をこっそりと済ませて颯爽と去って行ったというチャドウィック。
彼のさりげなくも力強い役者志望の若者への後押しを紹介したトレバーのツイートは、SNS上で拡散され、記事執筆時点で合計で20万件を超える「いいね」が寄せられている。
チャドウィックが訪れたサミュエル・フレンチ・フィルム&シアター・ブックショップ。
大物俳優に“背中を押してもらった”過去
チャドウィックは、長い下積み時代を経て、30代も半ばに差し掛かった2013年に公開された『42〜世界を変えた男〜』への主演が転機となりブレイクした“遅咲き”の苦労人。彼の名を世界中に知らしめることとなった『ブラックパンサー』への主演に抜擢されたのは、40歳目前だった。
じつは、チャドウィックには、自身が演劇を学び、役者の道を志ざす上で、背中を押してくれた恩人の俳優がいる。
それが、映画『トレーニング・デイ』や『フライト』で知られ、これまでに2度、映画界最高峰のアワードであるアカデミー賞の主演男優賞に輝いているデンゼル・ワシントン。
2018年に出演した米トーク番組『ザ・トゥナイト・ショー』のなかで、チャドウィックは、若い頃、イギリスのオックスフォード大学で演劇の夏期講座を受けた際、デンゼルから突然、経済的支援を受けたというエピソードを告白。
「これまでずっと秘密にしていたんだけど、ある日家に帰ったら、(講座の支払いに関する)送金証明通知が届いていて。そこには、“デンゼル・ワシントンがあなたのために支払いを済ませた”と記載されていたんだ」と語った。
当時、チャドウィックのほかにも、演劇界での活躍を夢見る若者たちの同講座の学費を肩代わりしていたというデンゼルは、その後、自身が『ザ・トゥナイト・ショー』に出演した際、『ブラックパンサー』のプレミアでチャドウィックと対面し、直接お礼を伝えられたことに言及。
「学費を支払ってくださり、ありがとうございました」と感謝したチャドウィックに、「そうだよ、『ブラックパンサー』は素晴らしかった。ワカンダ・フォーエヴァ―だ。でも、僕がここに来たのは、映画を観るためじゃない。さあ、金を返してくれ!」と、返金を催促するジョークで応えたことを笑いながら語っていた。
デンゼルは、チャドウィック逝去の報せに「彼は穏やかな魂の持ち主であり、素晴らしいアーティストでした。彼は、その短くも輝かしいキャリアの中で遺した数々のアイコニックなパフォーマンスを通じて、これからも私たちとともにあり続けることでしょう。チャドウィック・ボーズマンに神のご加護を」と米Entertainment Weeklyに出した声明を通じてコメントしている。
チャドウィックが俳優たちが足繁く通う書店の一画で若者の話に熱心に耳を傾け、アドバイスを与えた背景には、かつて自分の背中を押してくれた大先輩デンゼルの心意気を継承したいという想いもあったのかもしれない。
どんな理由にせよ、チャドウィックが感謝や見返りに期待することなく、自身と同じ道を目指す若者を支援するという“ヒーロー然”とした行動に出ていたという事実には、感銘を受けずにはいられない。(フロントロウ編集部)