米アカデミー賞が、作品賞の選考対象作品になるための新たな条件を設定した。(フロントロウ編集部)

白人男性が優位、アカデミー賞の取り組み

 「OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」というハッシュタグがトレンド入りした2015年と2016年から4年。米アカデミー賞が革新を起こす姿勢を見せている。

 アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、その会員の多くが「白人」「男性」であることが問題視されており、その会員によって決定されるノミネーションでは、2015年と2016年に、演技賞の全ノミネートを白人が占めたことで大きな批判を浴びた。しかし2016年に、今年2020年までに達成することを目標としたA2020が制作され、今年2020年7月には、その目標の1つであった女性や白人以外の人種の会員数を倍にすることを達成。

 とはいえ、女性の数はそれでも半数には届かず34%となっている。また、アメリカ国内におけるラテン系、アフリカ系アメリカ人、アジア系の合計は45.6%にのぼるが、アカデミーメンバー内では19%となっており、さらなる改善が求められている。会長のデヴィッド・ルビン氏も様々な課題に取り組む姿勢を見せており、2025年までの新たな目標であるAcademy Aperture 2025が発表されていた。

 7月時点で発表されていたAcademyAperture 2025の内容はこちら

作品賞に対して新たな条件を設定

画像: 作品賞に対して新たな条件を設定

 そしてこのたび映画芸術科学アカデミーが、2024年の第96回アカデミー賞より適用される、作品賞への新たな条件を発表した。条件は4つのセクションに分けられ、作品賞の選考対象となるためには、4つのうち2つを満たさなくてはいけない。条件は以下の通り。


基準A:画面上におけるレプリゼンテーション、テーマ、物語

 Aの基準を達成するために、作品は以下の条件のうち1つを満たさなくてはいけない。

 A1.主役俳優、もしくは重要な助演俳優
 最低でも1人の主役または重要な助演俳優が、描く機会を得られていない人種・民族に属している

・アジア系
・ヒスパニック系/ラテン系
・黒人/アフリカ系アメリカ人
・先住民族/ネイティブアメリカン/アラスカ先住民族
・中東系/北アフリカ系
・ネイティブハワイアン/その他の太平洋諸島の民族
・描く機会を得られていないその他の人種や民族

 A2.全体のキャスト
 2等以下の役柄を演じる俳優の少なくとも30%は、以下の、描く機会を得られていないグループの少なくとも2つに所属すること。

・女性
・人種・民族グループ
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人

 A3.ストーリーライン/テーマ
 映画のストーリーラインやテーマ、物語が、描く機会を得られていないグループを中心としている。

・女性
・人種・民族グループ
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人


基準B:クリエイティブなリーダーシップとプロジェクトチーム

 Bの基準を達成するためには、作品は以下の条件のうち1つを満たさなくてはいけない。

 B1.クリエイティブなリーダーシップと部署ごとの代表
 次のクリエイティブ系部門で指揮をとる役職や部門の代表のうち少なくとも2カ所で、以下のグループに所属していること。

 [キャスティングディレクター/シネマトグラファー/作曲家/衣装デザイナー/編集者/ヘアースタイリスト/メイクアップアーティスト/プロデューサー/プロダクションデザイナー/セットデコレーター/音響/VFXスーパバイザ―/脚本家]

・女性
・人種・民族グループ
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人

 少なくともその役職のうち1ヵ所は、以下の人種・民族グループに与えられなければいけない。

・アジア系
・ヒスパニック系/ラテン系
・黒人/アフリカ系アメリカ人
・先住民族/ネイティブアメリカン/アラスカ先住民族
・中東系/北アフリカ系
・ネイティブハワイアン/その他の太平洋諸島の民族
・描く機会を得られていないその他の人種や民族

 B2.その他の重要な役職
 その他のスタッフ/チームや、テクニカルな職(プロダクション・アシスタントは除く)のうち、少なくとも6つは、人種・民族グループに属すること。これらの職には、ファースト・アシスタントディレクターや照明監督、脚本のスーパバイザーなどを含む。

 B3.全体的なスタッフの構成
 映画スタッフの少なくとも30%は、以下のグループから選出される。

・女性
・人種・民族グループ
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人


基準C:業界へのアクセスや機会

 Cの基準を達成するためには、作品は両方の条件を満たさなくてはならない。

 C1.有給での見習い・インターンの機会
 映画の配給会社や出資企業は、以下のグループからの見習いやインターンに給与を支払うこと。

・女性
・人種・民族グループ
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人

 大手スタジオや配給会社は、以下の段階において、特定のグループの人々を含む(また、人種・民族的なグループも含む)有給の見習い・インターンを持つことが要求される。

 [プロダクション/ディベロップメント/撮影/ポストプロダクション/音楽/VFX/商務/配給/マーケティング・出版]

 中小、もしくはインディペンデントスタジオや配給会社は、少なくとも1つの制作段階で、少なくとも2名の見習いやインターンが上記のグループに所属していること(少なくとも1名は人種・民族グループに属する)。

 C2.トレーニングの機会と技術向上(スタッフ)
 映画の制作会社や配給会社、出資企業は、BTLプロモーション(※)において、トレーニングか勤務機会、もしくはその両方を、以下のグループに属する人々に提供すること。
 ※イベント、ダイレクトメール、店頭POPなどを介したプロモーション。

・女性
・人種・民族グループ
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人


基準D:観客のディベロップメント

 Dの基準を満たすためには、以下の条件を満たさなくてはいけない。

 D1.マーケティング、広告、配給におけるレプリゼンテーション
 スタジオか映画会社、もしくはその両方は、マーケティングや出版、配給チームに関わる社内の上級幹部に、以下のグループに属する人物を含めること(人種・民族グループからの人物も含めなければいけない)。

・女性
・人種・民族グループ
- アジア系
- ヒスパニック系/ラテン系
- 黒人/アフリカ系アメリカ人
- 先住民族/ネイティブアメリカン/アラスカ先住民族
- 中東系/北アフリカ系
- ネイティブハワイアン/その他の太平洋諸島の民族
- 描く機会を得られていないその他の人種や民族
・LGBTQ+
・知能、もしくは身体的な障がいを持つ人々、もしくは聴覚障がい者か、聴覚に困難がある人


 キャストやスタッフだけでなく、この先業界を支えていくインターンや見習い、そして多くの人に影響を与えるマーケティングにおいてまで、包括的に条件を設定したアカデミーには、大きな称賛の声があがっている。(フロントロウ編集部)

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