モデル業界の重鎮であるジェラルド・マリーから受けたレイプを告発した8名の女性達のことを、ジェラルドの元妻であり元トップモデルのリンダ・エヴァンジェリスタが「信じる」とコメントした。(フロントロウ編集部)

性暴力のウワサが絶えなかったモデル業界の重鎮

 ナオミ・キャンベルやシンディ・クロフォード、クラウディア・シファーなどの超トップモデルを輩出したフランスのモデルエージェントで、世界的に影響力を持ったエリート・モデル・マネジメント(Elite Model Management)のヨーロッパの元トップであるジェラルド・マリーには、長年、未成年者を含む女性達へのレイプや性的暴行の黒いウワサがあった。

 1999年には英公共放送のBBCドキュメンタリーが、エリート・モデル・マネジメントによるコンテストであるエリートモデルルックに隠しカメラを設置した際には、当時49歳のジェラルドが参加者を性的にそそのかしたいといった内容の発言が確認された。コンテスト参加者の平均年齢は15歳だった。

 ジェラルドは一旦その座から辞任したものの、BBCは情報を編集したとして裁判を起こし、彼に有利なカタチで和解。BBCは“表現がフェアではなかった”と謝罪している。それによって彼は復帰し、エリートモデルルックの運営も続けた。

 しかし2011年にはモデルのキャリー・オーティスが自伝『Beauty, Disrupted(原題)』のなかで、17歳だった1986年にジェラルドにレイプされたことを告発。2017年には、モデルのジル・ドッドが自伝『The Currency of Love(原題)』のなかで、1980年に19歳でジェラルドにレイプされたことを告発している。

画像: 1990年公開の映画『蘭の女』に出演したキャリー・オーティス。

1990年公開の映画『蘭の女』に出演したキャリー・オーティス。

 にもかかわらず女性達の声は取り上げられてこなかった。声をあげることも出来なかった。しかし2017年10月に米New York Timesが、ハリウッドの重鎮ハーヴェイ・ワインスタインの数十年にわたる性暴力を告発し、「MeToo」ムーブメントが起こった。これによって、この3年で世界中の多くの女性達が連帯し、風向きが変わっている。

 2018年には、ジェラルドの拠点であるフランスで、未成年者に対するレイプの時効が20年から30年に引き上げられた。大人に対するレイプの時効は依然として20年。ちなみに、日本の強制性交等罪の時効は刑事で10年、民事では被害者が損害および加害者を知ってから、3年、もしくは事件から20年。

モデル業界の重鎮をパリ検察が捜査

 そんななか2020年に、1980年代から90年代にかけて活躍したモデルであるエバ・カールソンと先述のキャリーとジル、さらにBBCの元ジャーナリストであるリサ・ブリンクワースが、ジェラルドからの性暴力を告発。フランス現地時間9月28日に、パリ検察が強姦と未成年の少女への虐待で捜査を開始した。捜査は、1980年から1998年の間にジェラルドから暴力を受けたとされる女性達の話に基づいて行なわれている。

 キャリーは1986年に17歳で数えきれないほどの回数ジェラルドからレイプされ、エバは1990年に20歳で、ジルは1980年に19歳でレイプされたという。そしてリサは、1998年に性器を腹部に押しつけられるという性的暴力を受けたという。

 ジル・ドッド。

 エバ・カールソン。

 そしてそのニュースから数週間が経ち、さらに、過去にモデルとして活動していたウェンディ・ウォルシュ、アン・マグワイア、E・J・モラン、ショーナ・リーの4名が声をあげた。

 性暴力に関しては、被害者を責める被害者非難やセカンドレイプも非常に深刻。時が経ってから告発する被害者に対しても起こりやすいが、性暴力は被害者の人生を壊す犯罪。アメリカで性暴力撲滅のために活動する非営利団体RAINNによると、レイプ被害者の女性のうち94%がその後2週間でPTSDを経験。しかし、被害から9ヵ月ほどが経ってからPTSDを経験する女性も30%にのぼる。そして33%の女性が自殺を考え、13%が実際に自殺を試みるという。また、性暴力の被害者はそうでない人に比べて、マリファナを使う確率が3.4倍、コカインを使う確率が6倍、そしてその他の有名な薬物を使う確率は10倍になるという。

 ウェンディは、今声をあげたことについて、「これは現在業界にいる少女達にも起こっている問題です。ストップさせる必要がある」と話す。

 ウェンディ・ウォルシュ。

 ウェンディは1980年に17歳で、アンは1980年に18歳で、E・Jは1981年の22歳になる夏に、ショーナは1992年に15歳でレイプをされたとしている。E・Jはその経験について命の危険を感じるほどだったと話し、ショーナは当時処女であり、ジェラルドともう1人の男はどちらが彼女の処女を奪えるかと話していたと明かした。ショーナは1人のモデル仲間にレイプ被害を明かしたけれど、それを聞きつけたジェラルドにキャリアを脅されたという。英The Guardianはこの他に、ジェラルドに近い男性達からレイプもしくは性的暴力を受けた女性達の少なくとも8人から証言を得たとしている。

元妻のリンダ・エヴァンジェリスタが告発者側に立つ

 そして、ジェラルドと1987年から1993年にかけて結婚していた元トップモデルのリンダ・エヴァンジェリスタも口を開いた。22歳で37歳のジェラルドと結婚したリンダは、英The Guardianのインタビューで、元夫を告発した女性達を信じると発言した。

「ジェラルド・マリーと交際していた期間に、彼に対して告発されているような性暴力の事実は知りませんでした。そのため、(現在彼を告発した)女性達を助けることが出来ませんでした。彼女達の話を今聞き、自分の経験と照らし合わせ、彼女達が事実を話していると信じます。それは一生癒えることのない傷であることを思うと心が痛みます。そして彼女達が今声を上げている強さと勇気に敬服します」

 モデル業界における性的虐待や性的搾取を防ぐために活動する非営利団体のModel Allianceの創設者であるサラ・ジフ氏はこの件についてこう話している。

「ジェラルド・マリーは数十年にわたって、性犯罪者として知られてきました。モデル業界の多くの人々と同じようにね。しかし解雇ではなく、ただただ昇進してきたのです。パリの検察によって捜査が開始されたことを嬉しく思います。そしてジェラルド・マリーの被害者が、ついに正義を得られることを願っています」

モデル業界の各地で声があがっている

 モデル業界ではジェラルドだけでなく、長年、性的ハラスメントが問題となっている。ジゼル・ブンチェンやミランダ・カー、ケンダル・ジェンナーやベラ・ハディッドなど、世界的トップモデルを数多く輩出してきたランジェリーブランドのヴィクトリアズ・シークレットでは、2020年2月に、重鎮のエド・ラゼックがモデル達に対して女性蔑視発言や性的嫌がらせを行なってきたことが米New York Timesにて告発された。その前年の2019年には、同ブランドのCEOであるジョン・ミハスに向けて、100名を超えるモデルが連名で業界を改善していくよう公開文書を送っている。

 また、ファッション業界の第一線で数十年にわたって活躍してきた、高級ファッションブランドであるジョルジオ・アルマーニ(GIORGIO ARMANI)の創設者でデザイナーのジョルジオ・アルマーニは、女性モデル達が置かれている状況について、「昨今では、女性のレイプ被害が多く語られるようになったけれど、女性はデザイナーたちによって日々レイプされていますよ。私は、いくつかの広告について話しています。女性が半裸で、挑発的に描かれているものです。多くの女性たちは、そのようにならなくてはいけないというプレッシャーを感じています。それは、私に言わせればレイプです。不適切です」と言い切っている。

 日本でも、モデルの水原希子がある企業の広告の撮影で、上半身は裸で胸は手で隠すポーズの撮影の際に、「その時だけ何故か沢山の男の人、多分上層部であろう20人くらいの社員の人達がスタジオに来て、裸だから撮影中は見られたくないと伝えたけれども、写真を確認しなくてはならないからと言う理由で、結局、仕事だからと拒否できないんだよという理由で、沢山の男性に裸を見られる環境の中で撮影を強いられた事があった」と話している。

 社会全体で女性への性暴力は深刻となっている。また、告発された人物が法によって裁かれないことも多い。巨大な変化を生んだハリウッドに続き、モデル業界でも変化が求められている。(フロントロウ編集部)

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