ゼンデイヤのもとに続々と舞い込む「出演オファー」
今最もハリウッドで注目を集める若手俳優の1人であるゼンデイヤは、2019年にファーストシーズンが放送された米HBOのドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』(以下『ユーフォリア』)でドラッグやアルコールの底なし沼にハマり、もがき苦しみ、生きることの意味を模索する女子高生を熱演。
ディズニーチャンネル出身で、それまで清純派のイメージが強かったゼンデイヤは、嘘つきで狡猾で、病んでいて、ドン底を彷徨っている思春期の中毒者という難しい役どころを見事に自分のものにし、演技派として認知されるように。
2020年9月に開催されたテレビ界最高峰のアワードといわれるエミー賞で黒人女性としては史上2人目、歴代最年少でドラマ部門の主演女優賞を受賞した。
ハリウッド映画やドラマといえば、知名度のある俳優でもオーディションを受けて役を獲得するのが主流。しかし、初の単独主演ドラマである『ユーフォリア』で確かな演技力を見せつけたゼンデイヤのもとには、ぜひ自分が手がける作品に出演して欲しいという、たくさんの作品の制作陣から、2020年を通してオファーが続々と舞い込んだ。
出演オファーを断りまくった理由
ところが、米GQとのインタビューでゼンデイヤが明かしたところによると、彼女はそれらの役のオファーをすべて断ってしまったという。
その裏には、演技と真剣に向き合い、着実に役者としてのキャリアを築こうとしているゼンデイヤなりの思惑があった。
自身にオファーされた役は、男性主人公をサポートする女性キャラクターの役が多かったことを明かしつつ、「別に脚本が悪かったとか、そういうことじゃないんだ。でも、いくつかの脚本を読んでみて、その物語に登場する、とくに女性の役は、全部同じ人物として演じても成立するんじゃないかと思ってしまった」と、そういった役には魅力を感じなかったと話したゼンデイヤ。
さらに、「わかりやすく言うと、女性のキャラクターは、男性の主人公がどこかへたどり着いたり、やるべき事を成し遂げるという目的を達成する手助けをするだけ、っていう感じ。彼女たちの人間的な成長とかは、ほとんど描かれないし、大抵の場合、すごく表面的で、奥行きがないんだよね。だから、みんな同じ人物のように見えてしまうし、それを何度も何度も同じことを繰り返しているようにも感じる」と続けた。
確かに、これまでゼンデイヤが出演してきた映画といえば、トム・ホランド主演のMCU映画『スパイダーマン』シリーズのMJ役や、ヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』で演じたサーカス団員のアン・ウィーラー役、ティモシー・シャラメ主演のSF映画『DUNE/デューン 砂の惑星』に登場する謎の女性チャニといった、男性主人公の活躍を“支えたり”、彼らの冒険を“盛り上げたり”する役どころが多かった。
ゼンデイヤの出演作に限らず、男性ヒーローが活躍するハリウッド作品などでは、女性キャラクターの描き方が短絡的で一辺倒なケースが多い。しかし、そこをあえて割り切って、役のオファーを受け入れなかった理由について、ゼンデイヤはこう言い切った。
「別にやってみても良かったとは思うんだけど、その役をやったことによって自分が成長できたとは思えない」。
自分が演じてみたい役を創り出す
裏を返せば、女性が主人公の作品で、主演にこだわらずとも、もっと深みのある役を演じてみたいというのが本音のよう。
そんなゼンデイヤは、新型コロナウイルス禍で『ユーフォリア』のレヴィンソン監督と再タッグを組み、映画『マルコム&マリー』を制作するという試みに挑戦し、またひとつ成長を遂げている。
米カリフォルニアでのロックダウンの最中に、ごく少人数のスタッフだけで極秘に制作された同作は、レヴィンソン監督とゼンデイヤの何気ない会話から派生し、映画化が実現した作品。ゼンデイヤはヘアメイクや衣装の調達まで自分で行なった。
映画『TENETテネット』の俳優ジョン・デヴィッド・ワシントンをもう1人の主演に迎え、あるカップルが直面する問題を生々しく描いた『マルコム&マリー』は、“ラブストーリーを超えた愛の物語”。
2月5日にNetflixで配信開始となる同作は、すでに観た映画人たちの間でかなりの高評価となっており、ゼンデイヤとジョンの演技は、それぞれ“彼ら史上最高”といっても過言ではないと言われるほど。
米エンタメメディアの編集者や批評家たちは、ゼンデイヤが同作でアカデミー賞の主演女優賞部門にノミネートするのではないかと予想している。(フロントロウ編集部)