「HIVをめぐる偏見は今なお存在する」ソロになったイヤーズ＆イヤーズのオリーが新体制や『It's a Sin』を語る【インタビュー】

ミュージシャン／俳優として転機を迎えたオリー・アレクサンダー

　新型コロナウイルスによるパンデミックによって人類がニューノーマルな生活様式への順応を余儀なくされてから1年以上が経ち、英現地時間5月12日にイギリスで開催されたBRITアワードが、新型コロナウイルスの検査で陰性が出た4,000人以上の観客を入れて開催されるなど、2021年に入ってから少しずつ元の日常を取り戻しつつある国も存在する。2021年はまだ半年以上残されているものの、そのBRITアワードに出演し、エルトン・ジョンと共にペット・ショップ・ボーイズの「It's a Sin」のカバーを披露したイヤーズ＆イヤーズのオリー・アレクサンダーにとって、既に2021年は大きな変化の1年となっている。

　ミュージシャン活動と並行して、映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』や映画『ライオット・クラブ』など、俳優としてこれまでにも注目作品に出演してきたオリーだったけれど、今年1月22日よりイギリスのChannel 4で放送、2月よりアメリカのHBO Maxで配信された主演ドラマ『It’s a Sin（読み：イッツ・ア・シン／意味：それは罪）』は、俳優オリーとして間違いなく1つの転機となった。

　元『ドクター・フー』のショーランナーで、クィアドラマ『Queer As Folk』も手がけたラッセル・T・デイヴィスが制作した『It’s a Sin』は、1980年代のイギリスを舞台に、HIVに翻弄されるゲイ男性たちの姿を描いたドラマ。

　同作が放送されるや否や、たちまち英国中で人気を呼び、Channel 4のストリーミングサイトAll 4の配信記録を更新。さらに、同サービスの視聴率も前年比より91％増加するという、大きな成功をもたらすことに。加えて、イギリスで行なわれた今年の全国HIV検査週間には、前年度と比較して約4倍もの人々が検査に訪れるなど、ドラマをきっかけに英国のHIV検査数もアップすることとなり、『It’s a Sin』は1つの社会現象となった。

　そんなオリーは3月に、ミュージシャンとしても1つの節目を迎えた。2010年に5人のメンバーで結成され、2013年からはオリー、マイキー・ゴールドスワシー、エムリ・タークメンの3人体制で活動を行なっていたイヤーズ＆イヤーズが、オリーのソロ・プロジェクトになると発表。4月には、オリーのソロになってからは初のシングルとなる「Starstruck」もリリースされた。

　そして5月21日には、2019年にイギリスが誇るグラストンベリー・フェスティバルに“レジェンド枠”として出演し、昨年11月には文字通りの最新アルバム『ディスコ』をリリースするなど、長きにわたってダンスポップのシーンを引っ張っているカイリー・ミノーグを迎えた「Starstruck」のリミックスをリリースしたイヤーズ＆イヤーズ。

　今回、フロントロウ編集部はオリーにリモートインタビュー。挨拶をかねて2018年のフジロックフェスティバルでの来日公演の感想を伝えたところ、「ありがとう。早くまた日本に行きたいな！」と、アイコニックな可愛らしい満面の笑顔で応じてくれたオリーに、マイキーとエムリの脱退を経てイヤーズ＆イヤーズをソロ・プロジェクトとして継続することに決めた理由や、新生イヤーズ＆イヤーズとしてのプラン、社会現象となった『It’s a Sin』などについて訊いた。

オリー・アレクサンダーにインタビュー

イヤーズ＆イヤーズがあなたのソロ・プロジェクトになるという発表には驚きました。ソロ・プロジェクトとして始動することに決めた経緯を教えていただけますか？

「正直に言うと、僕ら3人の間にここ何年かで（方向性の）違いが生まれたということ。10年くらい前に活動をスタートした時から比べると、僕らの音楽の作り方が大きく変化したんだよね。それぞれが別のことに取り組みたいと思うようになっていたなかで、僕としては、音楽をこれからも書き続け、イヤーズ&イヤーズの曲を作り続けたいと思ったんだ。そういうわけで、別々の道を進むべき時が来たという感じだった。あくまで、何か悪いことが起きたというわけではないよ。自然な進化のようなものだったと思う」

ファンからの反響も大きかったのでは？

「発表した当初は、ショックを受けたファンや、驚いたファンもいた。でも僕が見た反応の大半は応援がこもったもので、僕らの幸運を祈り、マイキーやエムレにも愛を送ってくれたし、イヤーズ＆イヤーズとしての僕の今後を楽しみにしていると言ってくれた。すごく嬉しかったよ。ファンからのサポートは掛け替えのないものだからね。ファンのサポートがなければ、今の僕は存在しない。感謝しかないよ。今もここにいてくれることを本当に嬉しく思ってる」

「オリー・アレクサンダー」という名義ではなく、あくまでソロとしてイヤーズ＆イヤーズとしての活動を継続することに決めた理由を教えてください。

「理由としては、イヤーズ＆イヤーズの新曲をずっと僕が作り続けていたからなんだ。イヤーズ＆イヤーズは自分の子どものように感じているし、僕自身、イヤーズ＆イヤーズとしての曲作りを止める準備ができていなかった。それが理由だよ。（オリー・アレクサンダーとして活動することも）考えはしたけどね。最終的には、このままがいいんじゃないかって思った」

ソロ・プロジェクトになってからのファーストシングル「Starstruck」には、どんなメッセージが込められているのでしょうか？

「『Starstruck』は、誰かに出会った時に、思わず圧倒されるような感情を抱くことについて歌った曲だよ。まるで星空にいるような気持ちになるような、現実とは思えない感情のこと。それから、僕としては、踊りたくなったり、気分が上がったりするような、ポジティブでアップビートな曲を作りたいと思っていた。COVID-19によるパンデミック中には、他の多くの人がそうだったように、僕も、出かけられなかったり、踊りに行けなかったり、友達と楽しい時間を過ごすことができなかったりで、ポジティブなエネルギーを創るのが難しい時があったからね。『Starstruck』は、そうしたことに挑戦したような曲になっている」

「Starstruck」にちなんで、これまでに出会ったなかで“最も魅了されたスター（Starstruck）”は誰でしょう？

「リアーナの大・大・大ファンなの！ だから数年前に（英トーク番組の）『The Graham Norton Show』で会えた時は、本当に嬉しかった。リアーナがそこにいるというだけで、圧倒されていたよ。それから、スパイス・ガールズのメラニー・Cとエマ・バントン、ジェリ・ハリウェルに会った時も圧倒されたな。他のメンバーたちに会ってもそうなると思う。だって、スパイス・ガールズは僕にとっての初めてのアイコンだから」

ということは、ヴィクトリアやメル・Bにはまだ会えていないのですね。

「そう。まだヴィクトリアやメル・Bには会ったことがないの。いつか会ってみたいよ」

「Starstruck」のリミックスにはカイリー・ミノーグが参加しています。カイリーが参加することになった経緯を教えてください。

「カイリーとは数年前に知り合った。2016年にロイヤル・アルバート公演で行なわれたカイリーのクリスマス公演の1つに、カイリーがゲストとして僕を呼んでくれたんだよね。僕は物心ついた頃から、ずっとカイリーのファンだった。曲もヴィジュアルも、彼女は何もかもが素晴らしいし、好きなところを挙げたらキリがないくらい。カイリーと会い、一緒に歌えたことは、これまでの人生における最高の経験の1つだよ。僕の母親もその公演を観に来て、すごく喜んでくれた。そういうわけで、僕らは数年来の仲だったんだけど、そんな時にふと、『Starstruck』にはカイリーの歌声がすごくハマるんじゃないかって思ったんだ。それで、お願いしてみたら、引き受けてくれたの。ありがとう、カイリー！」

ここからは、俳優としての活動についても訊かせてください。主演を務めたドラマ『It’s a Sin』は2021年にイギリスで最も視聴されたドラマの1つとなりましたが、そうした状況を実感し始めたのはいつ頃だったのでしょう？

「TVでの放送がスタートするよりも前に、制作陣がジャーナリストや批評家といった人たちに試写として映像を送ったんだ。一部の人たちが前もって『It’s a Sin』を観たんだけど、ドラマを観た色々な人たちから、『素晴らしかった』っていうメッセージが僕に届くようになった。それで、『これは僕もちゃんと観ないと』って思ったんだよね。当時は、まだ完成したものをすべては観れていなくて。それで、観てみた時に、『これは素晴らしいものになるかもしれない』とは思ったけど、視聴者の人たちがどう受け取ってくれるかまでは、想像できなかった。だから、最初のコマーシャルが放送されて、番組がオンラインで配信されるまでは、何も予測できていなかったよ。そんななかで大きな反響が寄せられたので、『これは、多くの人に観てもらえそうだ』って思えたという感じだね。すごく嬉しかったよ」

『It’s a Sin』が多くの人たちから絶賛され、社会に影響を与えたのはどのような理由からだと考えていますか？

「物語として見事なものになっているから、ドラマを観てくれた誰しもが、様々な形で登場人物たちに心を動かされたんだと思うな。ドラマのクリエイターであるラッセル・T・デイヴィスは素晴らしい脚本家だからね。それから、フィクションとはいえ、登場人物たちに起きたことが、事実に基づいているということ。当時、UKにおいて歴史として起きていたことなんだ。そういう歴史的な事実から目を背けようとしていた人たちがいたなかで（ドラマが放送されたということに）、多くの人たちが共感してくれたんじゃないかな。あまり話題に上がることはないけれど、HIVをめぐる偏見は今なお存在する。そういう議論にスポットライトを当てることができたと思うし、それはあらゆる人たちにとって意味のあることだった。そうした流れに自分が少なからず貢献できたことは、誇りに思ってるよ」

『It’s a Sin』はまだ日本には上陸していないのですが、『It’s a Sin』を待ち望んでいる日本のファンにどんなことを伝えたいですか？

「まずは、日本のファンにも観てもらえることを願っているよ。みんなにもぜひ、登場人物たちに出会ってもらいたい。このドラマは、1組の友人グループが、HIVというウイルスに人生を翻弄される物語になっている。感動的なストーリーになっているし、登場人物たちと恋に落ちてもらえたらと思う。そしてドラマを観終えた後も、彼らのことを想い続けてくれたら嬉しい。それが僕の願いかな」

『It’s A Sin』といえば、先日のBRITアワードでは、エルトン・ジョンとペット・ショップ・ボーイズによる「It’s a Sin」のカバーを披露されていました。パフォーマンスはとても美しく、LGBTQ+コミュニティをエンパワーし、祝福するような力強さがあったと思います。エルトンとの共演が実現した経緯や、このパフォーマンスに込めた想いを訊かせてください。

「『It’s a Sin』を観てくれたエルトン・ジョンが、ドラマをすごく気に入ってくれてね。キャストたち全員に電話をくれて、その思いを伝えてくれたんだ。僕のところにも電話をくれて、『よかったよ』って言ってくれた。そんなことがあった数週間後に、またエルトンが電話をくれて、『BRITアワードで『It’s a Sin』を一緒にパフォーマンスしないか？』っていうことを訊かれたんだ。そういうわけで、思わぬ形で舞い込んだ話だったんだけど、もちろん、僕としては『ぜひ！』という感じで。エルトンはドラマのメッセージや、ドラマがLGBTコミュニティを祝福するものになっていたというところを気に入ってくれていたからね。そういう経緯で、BRITアワードで『It’s a Sin』のスペシャル・バージョンを披露することにした。シングルとしてダウンロードもできるんだけど、収益はすべて、エルトン・ジョン・エイズ基金に寄付されるよ」

「パフォーマンスのコンセプトとしては、クィアの解放や、LGBTの人々の祝福、それから、クィア文化の歴史からインスピレーションを受けている。そういうわけで、僕らはコミュニティの人たちでステージを作りたくて、（DJにして、ロンドンにおけるLGBT+シーンのアイコンである）プリンセス・ジュリアのようなレジェンドにも出演してもらった。ドラマやファンタジーをステージで表現したかったの」

イヤーズ＆イヤーズとしての今後のプランを教えてください。「Starstruck」は来たるニューアルバムからのシングルなのでしょうか？

「その通り。『Starstruck』はニューアルバムからのファーストシングルだよ。今はアルバム制作の最終段階に取り組んでいるところ。『Starstruck』は、アルバム全体の雰囲気を表すような楽曲になっていると思う。アップビートで、僕を踊らせてくれるような、少しずつ異なる楽曲が収録されているよ。新曲は僕自身も楽しみにしていて、ファンのみんなにも気に入ってもらえたらと思うし、きっと気に入ってもらえるんじゃないかな。好きになってもらえるような曲を作った。間もなくリリースされるよ。新しい音楽はすぐにリリースされる」

最後に、あなたに魅了された（Starstruck）日本のファンにメッセージをお願いします！

「まずは、僕をサポートしてくれてありがとう。本当に嬉しく思ってる。みんなに愛を送るよ。みんなや、みんなの愛する人たち、みんなのご家族が無事でいることを祈っているし、みんなが自分のメンタルヘルスを大切にしていることを願ってる。自分に優しくね。早くみんなに会いたいよ、日本が大好きなんだ。みんな愛してるよ！」

イヤーズ＆イヤーズ、カイリー・ミノーグ
「Starstruck（Kylie Minogue Remix）」
配信中

Photo:ゲッティイメージズ

（フロントロウ編集部）