日本でも芸能人の息子や娘の起用に対して起こる「親の七光りだ」論争。ハリウッドでは「ネポベイビー」という造語まで誕生して、ここ数年で激しい論争になっている。その論争に、トム・ハンクスからケイト・ハドソンやヘイリー・ビーバーまで2世セレブたちとその親が反論!

ネポティズムの何が問題? 非2世と2世が白熱討論

 もちろんハリウッドにおけるネポティズムの議論では、“2世セレブだから才能がない”と言っているわけではない、才能がある2世はたくさんいるのだ。それと同時に才能のある非2世もたくさんいる。同じでありながら、前者はいきなり敏腕エージェントと契約できて、親や親の友人の作品で下積みができるという大きな格差がある。さらに、なかには才能よりもコネのおかげで業界にいられる人も一定数いるだろう。こちらに関しては、本当に才能のある人のチャンスを奪うという意味でより大きな問題をはらむ。

 そんな“親の七光り問題”について、映画界の重鎮であるフランクリン・レナード氏と2世セレブであるベン・スティラーが2021年にツイッターで激論した。

画像: フランクリン・レナードとベン・スティラー

フランクリン・レナードとベン・スティラー

 レナード氏は、ユニバーサル・ピクチャーズなどでの経験を経て、映画化されていない脚本を対象とした評価および映画製作マッチングのプロジェクトであるThe Black List(ブラックリスト)を立ち上げた映画界の重役。一方、映画『ズーランダー』や『ナイト ミュージアム』といった代表作を持つ俳優のベンは、映画監督や脚本家、コメディアンとしても活躍してきたジェリー・スティラーとアン・メイラの息子。ベンの姉エイミーも俳優として活動している。

 レナード氏は、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督の娘であるデストリー・スピルバーグが監督を務め、『シャイニング』や『It-イット-』などの名作を生み出したホラー作家スティーヴン・キングの息子オーウェン・キングが脚本を担当し、映画『ミスティック・リバー』と『ミルク』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したショーン・ペンの息子ホッパー・ペンが主演する短編映画『The Rightway(原題)』の制作が発表されたことを受けてコメント。

 “親の七光り”だとは言わなかったものの、映画界の重鎮たちを親に持つ若手たちがこぞって起用されたことに懐疑的だったレナード氏は、同作の公開を伝えるニュースに、「ハリウッドは実力主義なんだよね? 」と皮肉めいたひとことを添えてツイートした。

 すると、芸能一家の出身で、れっきとした2世セレブであるベンは、レナード氏のツイートに「それは安易すぎるよ。みんなそれぞれ努力して、創作してる。それぞれの道がある。彼らのベストを祈るよ」とコメントして、『The Rightway』に携わる2世クリエイターたちを擁護。

 すると、レナード氏は「僕だって心からそう願ってる。でも、そういう(親がお膳立てした)道筋があることを僕たちは認識しなくちゃいけないよね」と返信した。

 これに対し、ベンは「そうだね。彼らとは面識が無いけど、経験から言うと、彼らだってみんなさまざまな困難にぶち当たってきたはず。業界にアクセスがない人たちとはまた違うかもしれないけど。ショービズの世界は知っての通りなかなか険しい。結局のところは実力主義だよ」と自らのこれまでの経験をもとに語った。

 「もちろん、彼らがそれぞれ何かしらの試練に直面したであろうことは僕だって疑わない。彼らも人間だからね。ただ、僕が言いたいのは、この業界が、短期的に見ても長期的に見ても実力主義だっていう主張は受け入れられないっていうこと。もしそうだったら、カメラの裏側にいる人たちの完全なる多様性不足をどう説明する? 実力不足だとでも言うの? 」と返したレナード氏。

 これにはベンも賛成で「100%同意するよ。多様性はもっと重要な問題だ。疑いようもない。君の論点も理解できる。(2世のほうが一般の人より)アクセスがあることは確かだ。僕が言いたいのは、たとえその人が誰であっても、誰と知り合いであろうとも、才能が無い人はチャンスを生かせずに淘汰されていくということ」と返したが、レナード氏は「根本的には同意できないな。数字はウソをつかない。統計から言うと、業界で働く人の3分の1が実力ではなく、(コネや人種、性別などの)ほかの要因によりその仕事に就いている」「君も僕も、才能がないのにこの業界の仕事に就き続けている人たちをたくさん知っているだろ。お互い、それが誰かをいちいち名指しにするほど礼儀知らずじゃないけど」と掘り下げた。

 「ハリウッドの人たちは自分の成功が純粋に実力によるものだって信じる傾向にある」とレナード氏名が辛らつな分析を繰り出すと、ベンは「ワオ、本当に?僕は自分の成功は家族のおかげだと思っているし、そうじゃないなんて言った事はないけど。どうしてそんな風に大まかに一般化するんだい? 多様性に関する君の主張は正しいし、僕は同意するけど」とコメント。

 一歩も引かないレナード氏に最終的に折れた様子のベンは「君の視点は僕の観点を照らしてくれたよ。ハリウッドの人たちが何を信じるかという点に関する一般化に関しては意見が完全に一致することはないかもしれないけど、そんなことは、君が本当に言おうとしている、ショービズ業界における不平等さや偏りへの指摘よりは重要じゃないよね」と、有意義な討論ができたことには満足した様子で締めくくっていた。

スピルバーグ娘が2人の討論に反応

 レナード氏とベンのツイッター上でのやり取りは業界内外の注目を集めた。

 これを受け、議論の発端となったデストリーは、レナード氏とベンに宛てたすでに削除済みのツイートのなかで「私は映画という芸術を愛し、映画製作者を目指しているただの若い女性。ネポティズムについて人々が議論するのはいいけど、私は自分がここまで来るのにどれだけ努力したかや、簡単な道のりなんかじゃなかったことを知ってる。作品をとても誇りに思っているし、一緒に作った仲間たちのことも誇りに思う」とコメント。

画像: スピルバーグ娘が2人の討論に反応

 その後、「自分が特権を持って生まれたということは認識してる。それにずっと打ち勝とうとしてきた。だからこそ、業界に新しい才能を迎え入れて、あらゆるバックグランドを持つアーティストたちにチャンスを与えられるうになるということを自分のミッションにするつもり。コネクションがないからって、誰ものけ者にされるべきじゃない」と、映画界の多様化に貢献していきたいという抱負も綴っていた。

This article is a sponsored article by
''.