デイヴ・シャペル、騒動に向けたコメントを発表
2021年10月5日に世界で配信が始まったNetflixのスタンドアップ・コメディ特番『デイヴ・シャペルのこれでお開き』が、米Netflix社員からの反発やストライキに発展するほどの問題を引き起こしている。
事件の詳細については、まずはこの記事をご覧いただきたい。
Netflixのお家騒動を詳しく解説、デイヴ・シャペル番組のトランス差別問題で解雇やストライキが発生
渦中の人物であるデイヴ・シャペルは現地時間25日、自身のインスタグラムに動画を投稿し、現在出回っているウワサについて否定した。
約5分間にわたるその映像は、現在全国ツアー中のデイヴのステージでの様子を収めたもの。彼は「Netflixのトランスジェンダー従業員に話をするように誘われ、俺が断ったという話が報じられている。だがそれは事実ではない」と、観客からの声援を受けながら話し始めた。
「もし彼ら(Netflixのトランスジェンダー従業員)が俺を招待してくれていたら、俺は受け入れていただろう。しかし、何を話すのかについては混乱している。俺は自分の言いたいことを言い、そして、君たちが言いたいことも聞いた。何てこった、聞こえないわけがない。君たちはNetflixで安全な職場環境を望んでいると言った。でも(Netflixの)オフィスに行けないのは俺だけのようだ」
さらに、トランスジェンダー・コミュニティに直接語りかけた彼は、「俺を呼び出すことはできない」とコメント。「俺は誰の要求にも屈しない。そして、もし君が俺と会いたいのであれば、俺は喜んで会うが、いくつかの条件がある。まず、俺の特番を最初から最後まで見ていない人は来てはいけない。俺が選んだ場所に、俺が選んだ時間に来い。そして3つ目は、ハンナ・ギャズビーが面白くないことを認めろ」
ハンナ・ギャズビーはレズビアンの人気スタンドアップ・コメディアン。Netflixで配信されているスタンドアップコメディ番組『ハンナ・ギャズビーのナネット』は高い評価を受けている。ハンナは『デイヴ・シャペルのこれでお開き』でのデイヴの発言や、Netflixの対応、CEOの発言を批判していた。
強気な発言をしたデイヴは、続けて「メディアが“俺対トランス・コミュニティ”という枠組みを作っていても、そうはさせないということを、視聴者の皆さんに知ってもらいたい」と語り、「LGBTQコミュニティのせいにはしないでくれ。これ(『デイヴ・シャペルのこれでお開き』)は企業の利益のためであり、俺が何を言っていいか、何を言ってはいけないかの問題だ。言っておくけど、これは知っておいてほしいんだが、僕が知っているLGBTQコミュニティの人たちはみんな愛情を持ってサポートしてくれている」と、問題については理解しているが、コメディーショーはあくまでもショーであることを語り、自分はLGBTQ+の人々のサポートも受けているということを主張。
ちなみにデイヴの友人ではないが、トランスジェンダー・コミュニティからは批判の声は多く上がっており、Netflixドラマ『親愛なる白人様』のリードプロデューサーであるジャクリン・ムーアや黒人のトランス活動家、作家、思想家であるラクエル・ウィリスなどの著名人が発言をしている。ラクエルはデイヴについて「ジェンダーと人種を同一視して、『誰が一番抑圧されているか』という話にすり替えていると考えられる。実際はもっと複雑なのに」とコメントした。
さらに彼は、今回の騒動のせいで2020年に公開され好評を博していた自身のドキュメンタリー映画が苦境に立たされていることを明かし、「俺が作ったこの映画は、アメリカ国内のあらゆる映画祭に招待され、俺はそのうちのいくつかは受けた。でも、『デイヴ・シャペルのこれでお開き』が話題になったことで、これらの映画祭からは招待を取り下げられ、今では、どの映画会社も、映画スタジオも、映画祭も、誰もこの映画に触れようとしない。(米Netflixの共同CEOの)テッド・サランドスとNetflixには感謝している。彼らだけはまだ私をキャンセル(※)していないから」と、今回の騒動の煽りを食っているのは自分だとでも言うかのような発言をした。
※キャンセル・カルチャーのこと。デイヴは以前より、昨今のポリティカル・コレクトネス(※2)やキャンセル・カルチャーなど様々な出来事に繊細になりすぎる社会傾向を嫌っていることで有名。
※2 ポリティカル・コレクトネス:社会的に不利な立場にある人々や差別されている人々を排除したり、疎外したり、侮辱していると思われるような表現や行動を避けること。
共同CEOテッド・サランドスの発言が騒動をさらに掻き乱す
デイヴは、ジョークはただのジョークだというスタンスを取っており、それに同意する人が多いのは事実。一方で、トランスジェンダー女性が“女性ではない”として社会で差別を受けているのもまた事実。HRCの調査では、近年とくにトランスジェンダーに対する暴力が増加しており、そのような状況の中でデイヴほど影響力がある人がこのような発言をすることは、現実世界での差別や暴力を助長するのではないかとNetflix社内や世間で動揺が広まっている。
デイヴを擁護している米Netflixの共同CEOのテッド・サランドスは、「(デイヴ・)シャペルは現在最も人気のあるスタンダップコメディアンの一人であり、当社は彼と長年にわたる契約を結んでいます。…他のタレントと同様に、私たちは彼らの創造的自由を支援するために懸命に働いています。たとえそれが、映画『キューティーズ!』、『愛は、365の日々で』、『13の理由』、『マイ・アンオーソドックス・ライフ』のように、有害だと考える人がいるコンテンツが常にNetflixに存在することを意味するとしてもです」と、社内向けのメモで発言。
今回の騒動を受けて米GLAAD(アメリカ国内でLGBTQ+の人々のイメージに関するメディアモニタリングを行っている非政府組織)は、「Netflixとエンターテインメント業界全体における説明責任と変化を求める」と声明を発表している。
一般世界で言えばアウトである発言を多くするブラックジョークだが、果たしてジョークと差別の間の境界線は? 平行線を辿るデイヴ&テッド・サランドス共同CEOとNetflix社員とのこの問題に今後も注目。(フロントロウ編集部)