オーロラがグローバル配信イベント「A Touch Of The Divine」を開催
ノルウェー出身のシンガーソングライターであるオーロラが1月26日、通算3作目となる最新アルバム『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』のリリースを記念したグローバル配信イベント「A Touch Of The Divine」を開催した。直訳すると「神様の接触」を意味するこのイベントは、日本語で『触れることができる神々』を意味する、1月21日にリリースされた2年半ぶりの新作からの楽曲を、初めてファンに披露する機会となった。
フロントロウ編集部では、日本時間の午後6時に開催された、日本を含むアジアとオーストラリア、ニュージランド向けの回を観賞。開始予定時刻の少し前にアクセスすると、既にチャットスペースはオープンになっていて、英語や日本語、韓国語、中国語など、様々な言語でコメントが書き込まれていた。オーロラは自身のライブで創り出す空間を“クイーンダム(女王の国)”と呼び、昨年フロントロウ編集部が行なったインタビューでは「私のショウでは(みんな)自分らしくあって大丈夫」と語っていたが、世界各国のファンたちが国境を超えて集っていたチャット欄では、ファンがファンに誕生日を祝福するメッセージを送るなど、オーロラが統べるクイーンダムらしいあたたかい光景が広がっていた。
オーロラが繋げたファン同士のやり取りにほっこりしていると、ライブ開始予定の午後6時を回り、画面が切り替わってオーロラが登場した。
イベントでは6曲を披露する予定だと予告した後で、それらの楽曲は「私の心に最も近い楽曲たち」で、「すべての楽曲に、私がこのアルバムでみんなに伝えたいことが詰まってる」とオーロラ。ギリシャ神話に登場する神々をテーマにした楽曲を収録した『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』の中でも、特に自身が伝えたいメッセージが込められた楽曲たちを最も望む形でファンに紹介できる、「今後ツアーで披露するものとは大きく異なる、特別な機会」になっていると語った。
「A Touch Of The Divine」の模様をレポート
そんな、アルバムの世界観を最も忠実に体験できる一度限りの記念すべきイベントの1曲目を飾ったのは、「エクスヘイル・インヘイル(Exhale Inhale)」だった。枯れた木の下に1人でいるオーロラが映し出されると、彼女は苦悩と不安、悲しみと絶望を司る女神であるオイジュスにインスピレーションを得たこの曲を歌い始めた。不安を表現するように、明かりは暗く、そこにいるのはオーロラ1人のみで、ダンサーもバンドの姿もない。
「私はうごめくものだった/それから人間になった」という歌詞から始まるこの曲で、オーロラは、「私を呼ぶのは誰? 非常事態だといって/聞いているのは誰? 鳴り響くサイレンを/私たちの世界から奪わないで これ以上」と歌うのだが、様々な偏見や制限がある人間社会のなかで、ありのままではいられない様に警鐘を鳴らしているかのように聴こえてくる。
そんなオーロラの歌声に引き寄せられるように、女性と思われる6人のダンサーたちが集まったところで続けて披露されたのは、「ギヴィング・イン・トゥ・ザ・ラヴ(Giving In To The Love)」。セットは明るくなり、オーロラの顔にも微笑みが灯りはじめるのだが、一瞬にして表情や動きを変え、楽曲の世界観を忠実に再現できるのが、パフォーマーとしてのオーロラの真骨頂でもある。火の神であるプロメテウスにインスピレーションを得たこの曲で歌われるのは、誰かからの支配や繋がりを断ち切り、「私は自分の人生を生きたい」という思い。
歌詞として綴られているのは、“怒り”とも形容できる感情だが、ダンサーたちによる“舞い”と言ったほうが相応しいかもしれないダンスと共に楽しげにパフォーマンスされ、オーロラの明るい歌声が乗ったこの楽曲からはむしろ、解放されることの“喜び”が伝わってくる。「そこにいる誰かが/死にそうにない 完全な人を見つけようとする/でもみんな泣いて 誰も慰めない」と歌いながら、“完全”を求められる人間社会で、弱さを含めてありのままでいることの大切さを訴える。
スポークンワードによるパフォーマンスと、アルバムの1曲目に収録されているインストゥルメンタル曲「ザ・フォービドゥン・フルーツ・オブ・エデン(The Forbidden Fruits Of Eden)」を経て、男性と思われる8人のパフォーマーたちが新たに合流。冥界の女王であるペルセポネをテーマにした「ヒーゼンズ(Heathens)」が次にパフォーマンスされた。
コーラスを担当する男性のパフォーマーたちをバックに、女性ダンサーたちにもたれかかれながらパフォーマンスするオーロラ。楽曲には「柔らかく暖かな彼女の抱擁に包まれた」という歌詞が登場するが、ダンサーたちにもたれかかられるオーロラは、ここでは“神様”に扮していたのかもしれない。「私たちが触れるものはすべて邪悪 だから/私たちは異教徒のように暮らす」と歌いながら、オーロラは改めて、ありのままの欲望に忠実に生きることを求める。
アルバムの収録曲の中でも、最も忠実に“欲望”についてポップに歌っている楽曲の1つが、5曲目に披露された「ア・テンポラリー・ハイ(A Temporary High)」 。混沌を司るカオスにインスピレーションを得たこの曲で、「彼女の愛はつかの間の高鳴り」「彼女が愛を抱くなら 願ったほうがいい/その愛が つかの間の高鳴りではないことを」といった歌詞と共に表現されているのは、愛する人からの愛が一時的なものではないことを願う、恋愛や性愛を含む、どんな愛にも言える純粋な感情。
これは、より直接的に肉欲的な感情を表現した、今回のイベントでは披露されなかったアルバム収録曲「ジ・イノセント(The Innocent)」についても言えるのだが、人間、特に女性には“おしとやかに”という偏見がつきものになっている中で、オーロラはそうした感情を抱くことがあるのも自然なことだと、ポップな音楽に乗せて全面的に肯定してくれる。
そして、ダンサーたちは最後の舞いを披露した後で、姿を消し、再びオーロラ1人に。イエローのライトに照らされ、冒頭に登場した木の下に改めて戻ったオーロラは、最後の楽曲となる、アルバムでも本編最後に収録されている「ア・リトル・プレイス・コールド・ザ・ムーン(A Little Place Called The Moon)」を1人でパフォーマンス。
夕暮れを司るアストレウスをテーマにしたこの曲の最後のフレーズ「私たちは月へと向かう」と歌い上げると、そのままオーロラが月へ向かっていくかのように、画面がフェードアウト。クレジットが表示された後で、画面には「観てくれてありがとう、私のウォーリアー(ファンの総称)たち」と、ファンへの感謝のメッセージが表示された。
今回のイベントは、あくまでも『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』の世界観を忠実に再現するためのものだった。ギリシャ神話に登場する神様をモチーフにしたと聞くと、高尚で、敷居の高い作品のように思えてしまうかもしれないが、オーロラが伝えようとしているメッセージは、じつはシンプルなものだ。それは、あらゆる感情や個性が私たちを人間らしくしているのであり、それは決して恥じるべきではないということ。オーロラは今回のイベントを通じて、1人1人の人間らしさを力強く祝福してくれた。
<リリース情報>
オーロラ『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』
発売中
(フロントロウ編集部)