映画『バズ・ライトイヤー』の制作過程で一度はカットされた同性キャラクター同士のキスシーンが、社員を中心に始まった反発を受けて、本編に収められる運びとなったことがわかった。(フロントロウ編集部)

『バズ・ライトイヤー』に同性同士のキスシーンが収録へ

 ディズニー&ピクサー映画「トイ・ストーリー」シリーズに登場する人気キャラクター、バズ・ライトイヤーの誕生秘話を描くアニメーション映画『バズ・ライトイヤー』。

 2022年7月1日に日本公開される同作の英語版では、マーベル作品のキャプテン・アメリカ役などでおなじみの俳優クリス・エヴァンスがバズの声を担当するほか、『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督を務めたタイカ・ワイティティ、ディズニー・チャンネル出身で近年では映画『ハスラーズ』などへの出演でも知られるキキ・パーマーといった著名なセレブたちが声のキャストに名を連ねることでも注目を集めている。

画像: 左から:クリス・エヴァンス、タイカ・ワイティティ、キキ・パーマー

左から:クリス・エヴァンス、タイカ・ワイティティ、キキ・パーマー

 そんな『バズ・ライトイヤー』で、ディズニー/ピクサーの長編アニメーション映画としては初となる同性キャラクター同士のキスシーンがフィーチャーされることがわかった。

 そのキスシーンとは、ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の“クレイジーアイズ”役で一躍有名となった俳優のウゾ・アドゥーバが声優を務める女性キャラクター、ホーソーンとロマンス相手の女性によるもの。

画像: 英語版でホーソーンの声を担当するウゾ・アドゥーバ。

英語版でホーソーンの声を担当するウゾ・アドゥーバ。

 このレズビアンカップルのラブシーンは、制作過程において一度カットされたものの、公開まで4カ月を切ったつい先日、本編に収録することが決定。

 その裏には、昨今、関心を集めている米フロリダ州の性的指向の議論を禁止する法案、通称「ゲイと言ってはいけない法案(Don't Say Gay bill)」の可決に対するディズニーの対応の不十分さにスタジオ内部からも反発の声が高まったことが影響しているという。


「ゲイと言ってはいけない法案」への対応に反発

 フロリダでは、教師が生徒と性的指向や性自認といったLGBTQ+の話題について話し合うことを小学3年生以降になるまで禁止する法案が3月8日に可決。法案に賛成する人の間ではLGBTQ+に関する話は学校ではなく家庭で話し合うべきだとする声があるが、年頃の子供たちの相談相手が先生やクラスメートであるケースも少なくないため、子供たちからその機会を奪うことは悪影響を及ぼすという反対意見が強くある。さらに、社会の中では異性愛者の存在を見聞きする機会が多くあるが、LGBTQ+はそれが極端に少ない。だからこそ、LGBTQ+にとってもそうでない人にとっても幼い頃から様々な場所でその存在を知る機会があるのは非常に重要なこと。

画像: 「ゲイと言ってはいけない法案」への対応に反発

 多くの著名人や企業がこの法案に反対を表明するなか、可決後まもなく意見を求められたウォルト・ディズニー社のボブ・チャペックCEOは公式に見解を述べることを拒否。代わりに「ディズニーが永続的な変化をもたらす方法のひとつは、そのコンテンツです。『ミラベルと魔法だらけの家』のような映画やドラマ『モダン・ファミリー』のようなテレビ番組などが挙げられます。これらのストーリーは会社としてのスローガンであり、どんなツイートやロビー活動よりも強力なものです」と述べるにとどまった。

 くわえて、ディズニー社がこの法案を支持した保守派の議員に寄付をしていたことが判明。世間では「ディズニーをボイコットしよう」という動きが加速した。

 これを受け、チャペック氏は謝罪文を発表し、その中でLGBTQ+コミュニティを支援する団体への寄付と継続的なサポートを約束。

画像: ボブ・チャペック氏

ボブ・チャペック氏

 さらに同社で働くLGBTQ+の従業員に向けて、「LGBTQ+のコミュニティがあるからこそ、私たちはかぎりなく良く、より強い会社になれると心から信じています。私はこの件で的外れでしたが、私は皆さんにとって頼れる味方です。私は、皆さんが受けるべき保護、可視性、機会のために、率直な意見を述べる擁護者となります」とメッセージを送った。


一転、同性キスシーンを採用

 エンタメ業界を牽引するトップ企業ながら、作品内でのLGBTQ+のレプリゼンテーションにはまだ課題が山積みだとされているディズニー。

 ピクサーの元社員がVarietyに語ったところによると、スタジオ内部では「これまで長年にもわたって、クリエイターたちがLGBTQ+のアイデンティティを作品に織り込もうと努力してきたが、その度に阻止されてきた」という。

 「ゲイと言ってはいけない法案」の可決後には、ピクサーの従業員たちが連名で声明を発表。「ピクサーのクリエイティブチームやエグゼクティブたちがどんなに反対しようとも、同性キャラクター同士が必要以上に親密そうにする描写は、これまでいつもディズニーの要請によりカットされてきました」と告発していた。

 『バズ・ライトイヤー』に一度はお蔵入りしたレズビアンカップルのキスシーンを復活させたのは、これらの声に応え、今後の在り方を見直すというディズニー側の意思表示の1つだととらえられている。(フロントロウ編集部)

※当初記事内で「塩対応」といった、社会問題を扱う記事としては不適切な言葉が使われていたため修正して編集部内で再発防止のための協議を行ないました。

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