クリス・ロックのユーモアセンスに疑問
現地時間3月27年に開催された第94回アカデミー賞の授賞式で、俳優のウィル・スミスが、プレゼンターとして参加したコメディアンのクリス・ロックのジョークに激怒し、彼をビンタした一幕があった。
クリスが言ったジョークの内容は、ウィルの妻で俳優のジェイダ・ピンケット・スミスが坊主であることをジョークにしたもの。しかしジェイダの坊主はファッションではなく、脱毛症によってしたものであり、問題に。その後、ウィルは主演男優賞を受賞したため、受賞スピーチのなかで先の出来事についても触れて謝罪し、クリスも被害届は出さないとしている。
ウィルがクリスを殴ってしまったことは良い行いではないものの、ジェイダは長年脱毛症に悩んできており、その苦しさをたびたび口にしてきたことや、昔からの友人であるクリスを怒鳴りつけるほどウィルとジェイダにとってセンシティブな話題だったこともあり、クリスには批判的な視線が向けられている。
そんなクリスは、2016年のアカデミー賞でも差別的なジョークをして批判されていたことがあり、クリスをふたたび起用したアカデミー賞側にも怪訝な目を向ける視聴者は少なくない。
出演者を決めるアカデミー賞側の責任は?
2016年のアカデミー賞は、2015年に続いて演技賞すべての候補者が白人であり、全体の候補者も多くが白人だったことから、「Oscarssowhite(アカデミー賞は真っ白)」というハッシュタグが再度拡散された。
そんな授賞式でクリスは、3人のアジア系の子供たちを“アカデミー賞の会計係”として登場させた。これは、アジア系は数学が得意だというステレオタイプに基づくもの。さらに、「あのジョークに怒るのなら、携帯電話を使ってツイートすれば良いよ。それもアジア系の子供たちによって作られているだろう」と、スウェットショップ(※幼い子供などが働かされている搾取工場のこと)問題に触れてジョークを飛ばした
Host @chrisrock using Asian kids for stereotype joke? That's how clueless #Oscars still are. https://t.co/uMKHbZNxyo pic.twitter.com/6zUCAuvT0X
— CNN Opinion (@CNNOpinion) February 29, 2016
またこの年には、イギリス人コメディアンのサシャ・バロン・コーエンが、自身の代名詞的キャラクターであるアリ・Gに扮し、アジア系俳優にもオスカーをと主張したが、その際にアジア系俳優をアニメキャラのミニオンズと比較して、「小さな性器の黄色い人々」と表現するジョークを言い放っている。サシャはアリ・Gに扮することをアカデミー賞側に隠していたとしており、不安もあったという。しかし、ステージに向かうさなかにクリスにいくつかのジョークを話したところ、クリスが前向きな反応を示したため、それに背中を押されたとしている。
これらのジョークを受けて、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督や、『スター・トレック』シリーズの俳優ジョージ・タケイらを含むアジア系のアカデミー賞会員たちが連名でアカデミー賞に抗議。
また、『ハスラーズ』のコンスタンス・ウーは、「小さな子供たちにセリフもあげず、単に人種差別的ジョークのためだけに舞台に出させることは(差別の)再生産でグロテスク」とツイートし、『ザ・バットマン』のジェフリー・ライトは、「アジア系/ユダヤ系の子供たち。アカデミー賞のジョークは再校正される必要がある。アカデミー賞は真っ白?」と意見した。
ドラマ『LOST』のダニエル・デイ・キムは、アカデミー賞全体でアジア系のレプリゼンテーションがないことを指摘し、「アカデミー賞で黒人以外の民族についての初めての言及までには30分かかり、それは“フォー”についてだった。多様性とはそれ以上のものだと思ったが」とツイートした。
また、Asian Americans Advancing JusticeのトップであるMee Moua氏は、アメリカにおいては人種の話となると、黒人と白人の話になってしまうと指摘する声明を発表している。
「昨夜の授賞式、特にアジア系の子供たちを巻き込んだ“ジョーク”は、アジア系とアジア系アメリカ人に対する有害なステレオタイプ以上のものを示しており、アメリカにおける人種についての話しの失敗の1つを露呈しています。人種関係とは黒人と白人の2つではない」
コメディアンたちのジョークは政治や社会の風刺として使われることもある一方で、たびたび問題にもなってきている。その物事や人を対象にし、どう笑いを取り、どう使うか。それは難しく、スキルとセンスが求められることだが、ジョークであれば人を傷つけて良いということは絶対にない。
アカデミー賞という一大イベントにおいては、観客を盛り上げる司会者やプレゼンターは必要。しかし世界中で生放送されているアワードにおいてその発言は大きな影響力を持っており、ステージに立つ側も、その人をキャスティングする側も責任を問われる。
(フロントロウ編集部)