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トランスジェンダーの娘を持つ元NBA選手のドウェイン・ウェイドが語る“気づき”とは? 生まれたときに割り当てられた性別が男児だった子どもがじつは娘だったと知り真っ先にした事や、自身と同じ境遇にある親たちへのメッセージが深い。(フロントロウ編集部)

トランスジェンダーに関して無知だった父

 「子どもを持ったおかげで人として成長できた」。どんな親でも、子育てをしていくなかで、ふとそんな風に気づかされる瞬間がある。

 NBAチームのマイアミ・ヒートで活躍し、レジェンドと称された元バスケットボール選手のドウェイン・ウェイドの場合は、自分では経験したことがない未知の葛藤のなかでアイデンティティを見出そうと模索するトランスジェンダーの娘の懸命な姿を目の当たりにしたことで、人として大きく成長することができたという。

 ドウェインの第2子ザヤは、12歳だった2020年にトランスジェンダーであることを世間にカミングアウト。生まれた時に割り当てられた“男性“ではなく、自分が認識する性別である“女性“として生きていく意思を明らかにした。

画像: 2020年、黒人LGBTQ+コミュニティにおける功労賞であるトゥルース・アワードの授賞式にカラーリンクした家族コーデで出席したドウェイン・ウェイド、娘のザヤ、妻のガブリエル・ユニオン。

2020年、黒人LGBTQ+コミュニティにおける功労賞であるトゥルース・アワードの授賞式にカラーリンクした家族コーデで出席したドウェイン・ウェイド、娘のザヤ、妻のガブリエル・ユニオン。

 以来、ザヤにとって継母にあたる、ドウェインの妻で俳優のガブリエル・ユニオンとともに、LBGTQ+の子どもを持つ親としての公の場で語る機会が増えたドウェインは、社会にポジティブなメッセージを発信し続け、ザヤと同様の境遇にある子どもたちの家族にとっての“お手本”のような存在として支持されるようになり、夫婦そろって、米TIME誌による「世界で最も影響力のある100人」にも選出された。

 今でこそ、ザヤにとって「最大の理解者」にして「最強のサポーター」となったドウェインだが、ザヤが性別違和を抱えていると気づくまでは、恥ずかしながらLGBTQ+に関して無知であり、それゆえに偏見まみれだったことを認めている。

堂々とした子どもの言動にハッとする

 ドウェインは、LGBTQ+に対して非寛容な地域で育ち、“男の子はこうあるべき”“女の子はこうあるべき”というジェンダーステレオタイプが強いとされるアフリカ系アメリカ人のカルチャーのなかで思春期を過ごした。

 「私も例外ではありませんでした。そういう風に育てられましたから。仲間につられて、ロッカールームで良くない表現を口にしたこともありました」

 YouTubeチャンネル『I Am Athlete』でそう語り、かつての自分は周りに同調して、悪びれることもなくLGBTQ+に関して間違った表現や言葉を使って会話をするタイプの人間だったと素直に省みている。

画像1: 堂々とした子どもの言動にハッとする

 しかし、ザヤが成長するにつれて次第に性別違和の兆候を見せるようになったことで、ドウェインは「もしこの子にトランスジェンダーだと打ち明けられたら、どうすれば…? 」と自問自答するように。

 そんななか、8歳になったザヤが、学校で出された“自分について説明する”課題に堂々と自分のアイデンティティについて「黒人」、「ゲイ」と書き記すのを見てハッとしたという。

 まだ「ストレート」と「ゲイ」という2つの言葉しか知らなかったザヤは、女の子よりも男の子に惹かれるという理由から、自分のアイデンティティについて「ゲイ」だと書いたそう。

 当時のザヤの担任教師がクィアを公言していたことも、まだ小学校低学年のザヤが自分を「ゲイ」だと臆することなく表現できた一因だろうと前置きしつつ、ドウェインはこんな風に語っている。

 「その瞬間、私がこれまで教わってきた偏見は、すべてどこかへ消えて無くなりなりました。私の唯一の役目は、この子に自分はサポートされている、自分は父親や母親から愛されているんだと実感しながら成長してもらうことだと気づいたんです」

 「もっと良い人間にならなくてはいけないと気づきました。もっと何かをしなくては、もっと自分自身を教育する必要があると」

画像2: 堂々とした子どもの言動にハッとする

子どもがじつは娘だったと知り真っ先にした事

 その後、ザヤは自分なりにリサーチを重ね、自身はトランスジェンダーであるとの結論に至り、家族にそのことを伝えたそう。

 「ザヤは自分で色々とリサーチしていました。それで、ある日家族を集めて『私はゲイじゃないと思う』と言ったんです。なぜその結論に至ったのかについて、彼女から『私は自分でこう認識してる。これが私のジェンダー・アイデンティティ。私は自分で自分のことを女の子だと思ってる。男の子が好きだから、ストレートのトランスジェンダーだと思う』と説明されました。家族として、まずは娘と向き合って話し合うところから始めて、本当の彼女は一体何者で、何が好きなのかを徐々に知っていきました。もちろん彼女にプレッシャーを与えるようなことは一切しませんでした」

画像: 2022年、ガブリエルが主演する映画『12人のパパ』のプレミアに末っ子のカーヴィアも連れて参加したドウェイン、ガブリエル、ザヤ(写真左)。

2022年、ガブリエルが主演する映画『12人のパパ』のプレミアに末っ子のカーヴィアも連れて参加したドウェイン、ガブリエル、ザヤ(写真左)。

 それまでの人生で一度もゲイやトランスジェンダーの人たちと関わりを持ったことがなかったというドウェインが、ガブリエルとともにまず行なったのはリサーチ。さまざまな人の声に耳を傾けることが重要だと考え、人づてでLGBTQ+当事者たちを紹介してもらってコンタクトをとったという。

 ドウェインが、ガブリエルとともに話を聞いた当事者たちの中には、LGBTQ+の役者が史上最も多く起用されたドラマとして知られる『POSE/ポーズ』のキャストたちも。

画像: ドラマ『POSE/ポーズ』のキャストたち。

ドラマ『POSE/ポーズ』のキャストたち。

 さらに、ドウェインにとってはNBAの大先輩にあたる元スター選手マジック・ジョンソンも、彼の息子のEJがゲイであることを公表しているという経緯から、LGBTQ+の子を持つ親としての心構えについて、いろいろとアドバイスを授けてくれたという。

画像: マジック・ジョンソンと息子のEJ・ジョンソン(左)。EJはテレビパーソナリティとして活動している。

マジック・ジョンソンと息子のEJ・ジョンソン(左)。EJはテレビパーソナリティとして活動している。


トランスジェンダーだと告白した娘にかけた言葉

 LGBTQ+コミュニティやトランスジェンダーについて知識を深め、親として自分には何ができるのか深く考えたドウェイン。そんな彼がザヤにかけたのはこんな言葉だった。

 「君が何者であるかを語るのは私たち親の役目でも責任でもない。君はなるべき人になるんだ。私がすべきことは、君がなりたい自分になることを可能にし、目標に到達できるように手助けすることだ」

 12歳になったザヤが、トランスジェンダーであることを世間に公表したいと言い出したときは、一部では反発も起こることを予想して、正直そうさせるべきか、とても迷ったそう。しかし、ドウェインとガブリエル、そしてザヤのきょうだいたちは、ザヤの意志を尊重し、何があっても彼女を守ろうとバックアップ体制を万全にして公表に臨んだ。

「声高に愛する」ことの重要さ

 6月のプライド月間に合わせて行なわれるレインボー・パレードに一家総出で参加するなど、ドウェインとともにザヤが歩む道を後押ししてきたガブリエルは、LGBTQ+の子どもたちへのサポートをあえて声を大にして伝えることは、大きな支えとなると米Buzzfeedに語る。

 「子供たちが本質をさらけ出し、自分が何者かを教えてくれたなら、親は自分たちの夢や希望、不安や欲望を押しつけるのではなく、信じてあげることが務めです。愛情と思いやりを持ち、子供たちを守りながら導くことが親の役割なのは確かですが、彼らの人生は彼らのもの。それはリスペクトしなくてはいけません」

画像1: 「声高に愛する」ことの重要さ

 「私たち家族にとっては、声高に生き、声高に愛することはとても重要なことなんです」ともコメントしたガブリエル。

 これは、2022年3月に米フロリダ州で可決されて物議を醸している、教師が生徒と性的指向や性自認といったLGBTQ+の話題について話し合うことを小学3年生以降になるまで禁止する法案、通称「ゲイと言ってはいけない法案(Don't Say Gay bill)」への抗議の意を込めたもの。

画像2: 「声高に愛する」ことの重要さ

 「私たちは家族のことをSNSに投稿することをやめません。私たちは、大声で生き、大声で愛します。もしも必要とされるなら、声を上げ、物事を正しい方向に導くためのリーダーとして道を切り開いていくつもりです」と、これからもザヤと自分たち家族の成長を公然のものとしていく意思を表明している。

LGBTQ+の子どもの父親たちへのアドバイス

 ドウェインは、自身と同じように我が子からトランスジェンダーであると打ち明けられた父親たちに対して、2022年5月に開催されたメットガラのレッドカーペットでのインタビューで、こんなアドバイスを送っている。

 「子どもが生まれた日、初めてその子を抱き、見つめた瞬間のこと、その時に駆けめぐった感情や、胸が張り裂けそうなほどに感じた愛情をどうか忘れないでください。何があっても」

 「私たち親がどうしてもしてしまいがちなのは、我が子を自分の小さな分身のようにとらえ、自分と同じようにしようとしてしまうこと。でも、子どもたちはそれぞれ、自然と“なるべき自分”になっていくんです。私たちの仕事は、彼らが目指す場所にたどり着けるよう礎を築き、その方向に背中を押してあげることです」

(フロントロウ編集)

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