ショーン・ビーンの反発に専門家がコメント
セックスシーンやヌードシーンといった俳優が傷つけられやすいシーンにおいて、俳優を守るための専門家であるインティマシー・コーディネーターが、近年アメリカやイギリスの映像撮影現場で起用されている。米HBOは2018年に、すべての親密なシーンを含む撮影でインティマシー・コーディネーターを起用すると決定した。
コーディネーターの存在に感謝する俳優は非常に多いのだが、何事にも反発はある。先日、『ゲーム・オブ・スローンズ』のネッド・スターク役でも知られるショーン・ビーンが、コーディネーターは「自然さを台無しにする」として強く反発。俳優や業界関係者から大きな批判が起こった。
そんななか、『ゲーム・オブ・スローンズ』のスピンオフドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のインティマシー・コーディネーターであるミリアム・ルシアが米Deadlineのインタビューで騒動に反応した。彼女は、コーディネーターが現場で行なっていることについて説明。
「彼を俳優として好きです。ドラマの『Marriage』を見たばかりなのですが、彼は素晴らしかったですよ。私が思うに、彼はある特定の年代の男性です。この業界で非常に長く活動してきましたが、自分と異なる立場の経験はない。もしくは、もしかしたらインティマシー・コーディネーターと上手くいかなかった経験があるのかもしれません。
私がただ言いたいのは、これまでの私の経験でそれ(インティマシー・コーディネーターの存在)がクリエイティブな過程に介入したことはありません。むしろそれはクリエイティブな過程を助けるものだと思っています。なぜなら、俳優たちが触られることや同意することに安心さえできれば、そして動きがどうなるか分かれば、そこに感情を足せるからです。そして、そうすれば自由が見つけられる。なぜなら、あなたは焦ったり、手探りで何かを見つけようとしなくて良いからです」
フロントロウがインティマシー・コーディネーターのパイオニアであるイタ・オブライエンに独占取材を実施した際に、彼女も同様の思いを語っていた。イタは、コーディネーターの仕事の中心にはコミュニケーションがあり、監督、俳優、カメラクルー、衣装部といったすべての人達と打ち合わせをすると説明し、このように語っていた。
「これは、私たちが少しずつ押しすすめるコラボレーションなんです。そうしておけば、撮影が始まった時には、すべてが理解されている。すべての人が、どうやって撮影が進められるか分かっている。すべての人に敬意が払われ、それぞれが必要としていることを理解している。そうすることで、私たちは自由に、そしてオープンに働くことができます」
脚本がある作品における自然さとは?
ショーンの発言には、インティマシー・コーディネーターの存在によって助けられた俳優たちからの批判が多かったが、まずもって演技における自然さとは何なのかという指摘も多かった。ドラマ『Ghosts(原題)』のリッチー・モリアーティもショーンの発言について、「脚本で決められた瞬間を自然に感じさせることこそ俳優の仕事だけど」と話していたが、ミリアムも同じような思いを抱いたようで、こんな指摘を続けた。
「自然さというのは、私たち俳優が行なっていることだと考えています。それをやったことがないというフリをする必要がある。すべては自然なことだと表現しなければいけない。しかし私たちには脚本があるので、セリフは自然に出てきたものではないでしょう。自然に見えるように取り組まなければいけない。なので、その点は彼が言ったことで、私には理論が通っていないように思えるところです」
作品の制作には脚本がある。さらに、ほとんどの作品は観客が見ている映像のように一気に撮影されるわけではなく、少し撮影したらカットがかかるうえ、別の角度から同じショットを何度も撮影することもある。そして周囲では多くの撮影スタッフが見ている。そのような撮影の環境においては、自然さは自然に生まれるようなものではなく、作り出すものだと言える。
ミリアムがコーディネーターを務めた『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、第4話で多くのセックスシーンがあったが、監督が女性で、女性視点で性描写に取り組み、ミリアムも現場で俳優たちをサポートしたため、絶賛の嵐となっている。
(フロントロウ編集部)