カニエ・ウェストと「双極性障害」の関係
現在45歳のカニエ・ウェストが双極性障害と診断されたのは39歳の時。当時セイント・パブロ・ツアーを行なっていたカニエは、周囲を心配させる言動を繰り返し、精神科に非任意入院させられた。当時、妻だったキム・カーダシアンの母クリス・ジェンナーはカニエの状態について「疲労がたまっているだけ」としていたが、精神科に長期入院していたことをのちにカニエ自身が認めた。
厚生労働省は双極性障害について「ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態」を繰り返す病気だとしており、日本では100人に1人が双極性障害と共に生きているとされている。米国精神障害者家族連合会(NAMI)は双極性障害の兆候として、幻覚、妄想、気分の急速な高揚や苛立ち、予測不能な行動、異常に危険な判断などを挙げられており、「躁状態の人は、ほとんどの場合、自分の行動がもたらす負の影響に気づいていません」と説明している。
カニエ自身は、双極性障害の“エピソード(発作/発症)”について「双極性障害を抱えている人のなかには気分が落ち込む人もいるけど、自分はハイになる」と2018年に『ジミー・キンメル・ライブ』で説明。そして、2019年の『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』では、「この状態にいるときは、すべてに対して、全員に対して、超疑心暗鬼になるんです。これはあくまで私の体験であって、他の体験をしている人もいると思いますが、(この状態にいるときは)誰もが俳優で、すべてが陰謀に思えるのです。すべてが見えるように思える。政府が自分の頭にチップを埋め込んだと思い、自分が撮影されていると感じるのです」「みんなが自分を殺そうと思っていると感じ、誰のことも信用できなくなる」と明かした。
2014年から2022年までカニエと婚姻関係にあったキム・カーダシアンは2020年にインスタグラムでカニエの双極性障害に触れて、「このような状況にある人、あるいは愛する人がいる人は、それがどれほど複雑でつらいことなのかを理解しているはずです」としたうえで、カニエは「優秀だが複雑な人物」であり、「言葉と意図が一致しないこともある」ため誤解を受けやすいと擁護した。
カニエの発言は真意なのか?メンタルヘルスのせいなのか?
双極性障害の症状がひどいときは、落ち着いている時とは異なる考えや感情が湧くことを認めているカニエ。それだけに、カニエが“奇行”とされる言動を繰り返したときには、“メンタルヘルスの問題を抱えているから”と寛大な解釈がされてきた。これについてはキム・カーダシアンも、「私たちは社会全体でメンタルヘルスの問題に寛大になるべきだと言っていますが、それと同時に、最も必要とされる時に、それを抱えて生きている人に寛大になるべきなのです」と過去にインスタグラムで語り、「寛大」な対応を世間に求めた。
しかし一方で、カニエ自身はそれに対して不満を漏らし続けている。『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』では、「セレブリティとして言ってほしくないことを僕が言ったら、『彼はクレイジーなだけだ』と言われる」と説明。さらにポッドキャスト番組『Drink Champs』の中では、「何かについて間違っている、真実を隠している、あるいは嘘をついていると言いたいときはいつでも、『Yeはクレイジーだ』と言うのです。聞く耳を持たないための、まさに究極の最後の切り札ですよ」と主張した。
ちなみにカニエは、レターマンの番組で「一定の状態を保てるように毎日薬を飲まないと、入院が必要なほど興奮した状態になってしまい、“異常な状態”がはじまる」と薬の効力を認めているが、2018年と2019年の時点で薬の服用をしていないことを明かしている(現在の状態は不明)。
これは、“薬を飲むと本当の自分ではない”という考えがもとになっているようで、2019年に当時の妻キムは「彼にとって薬を飲むことは、自分という人間を変えてしまうことになるので、選択肢としてないのです」と米Vogueで説明。さらにキムはインスタグラムで、「相手が未成年でない限り、(助けを与えるという意味で)家族は無力であることを知っています」「家族や友人がどんなに努力しても、本人が助けを得るプロセスに参加しなければならない」と、本人の同意なしでの治療の難しさを明かした。
カニエはと言うと、「薬を飲んでいて、『Watch the Throne』や『Dark Fantasy』のようなレベルの曲が作れるわけがない」と2018年にツイート。レターマンの番組では、薬の服用をしないことを「提唱しているわけではない」とはっきり明言したうえで、「クレイジーなアイディア、クレイジーなステージ、クレイジーな音楽、クレイジーな思想がほしいと言うなら、それはクレイジーな人から生まれる可能性はあるんじゃないか」と語った。
米国立精神衛生研究所(NIMH)や米国精神障害者家族連合会(NAMI)は双極性障害の治療法として薬物療法と心理療法を挙げており、『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』では司会者がカニエのこの発言に「それは医療関係者を怒らせると思う」としたうえで、「自分も薬の服用を何年も拒んできた。『これが自分で、この自分のおかげでここまで来られた。だったらなぜ薬でそれを台無しにするんだ』と思っていたのです。しかし実際に薬を飲んでみたら、逆に、クリエイティブなプロセスにおいて障害になっていたことが(服用のおかげで)なくなったことに気がついた」と自身の体験を明かした。
セレブリティ界では、セレーナ・ゴメス、マライア・キャリー、メル・ギブソン、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、デミ・ロヴァート、ビービー・レクサなどが双極性障害であると公表している。最近メンタルヘルスの会話を多くリードしているセレーナは、「助けを求め、信頼できる人を見つける方法があることに気づいたのです。適切な薬を服用するようになり、私の人生は完全に変わりました。」と2020年にWSJ Magazineに語っていた。