不適切な言動を繰り返していたカニエ・ウェスト(本名:Ye)が、エージェント、弁護士、さらには約9年にわたりコラボしてきたアディダスから関係を解消された。今回の騒動を時系列で追うとともに、カニエが長年オープンに語ってきたメンタルヘルスの問題にスポットライトを当てる。(フロントロウ編集部)

今回の件で2つだけ明確なこと

 カニエ・ウェストはメンタルヘルス面で複雑な事情を持つわけだが、最近の件では、2つだけはっきりしていることがある。

 1つめが、カニエの最近の発言がメンタルヘルスの悪化が原因であろうがなかろうが、人種差別的な発言は許されないということ。過去には「寛大」な対応を願っていた元妻のキムも、今回は「ヘイトスピーチは決して許されないし、言い訳の余地はありません」と公にカニエの言動を批判した。

画像: 2014年~2022年に婚姻関係にあったカニエとキムには4人の子どもがいる。キムは2022年3月にトーク番組『エレンの部屋』でたびたび不適切な言動をするカニエに触れ、「彼は私の子どもの父親です、私はいつも彼を守ります」と語っていた。

2014年~2022年に婚姻関係にあったカニエとキムには4人の子どもがいる。キムは2022年3月にトーク番組『エレンの部屋』でたびたび不適切な言動をするカニエに触れ、「彼は私の子どもの父親です、私はいつも彼を守ります」と語っていた。

 そして2つめは、メンタルヘルスの問題を抱えているかもしれない人物がヘイトスピーチを繰り返しているときにわざわざ“演説”をする場所を与えるべきではないということ。カニエと“ビーフ(喧嘩)”しているとされたテレビ司会者のトレヴァー・ノアは、「メンタルヘルスの問題を抱えていると公に言っている人とはビーフはしない」としたうえで、「僕がビーフをしたいのは、(メンタルヘルスの問題を抱えたカニエを)助けるために、『今は彼の前にマイクを突きつけて何でもかんでも言えるようにするタイミングじゃないでしょう』と言わない社会」だと自身の番組で語った。

 また、最近のなかでは、「ヘイトスピーチが聴衆を持つことは決してあってはならない」としてカニエのインタビューを“放送しない”と決断したトーク番組『The Shop』の対応は賞賛に値するのではないだろうか。NBA選手レブロン・ジェームズと実業家のマーヴェリック・カーターの番組である『The Shop』は、数週間前から決まっていたというカニエとのトーク回を収録したものの、カニエが番組内で人種差別的な主張を繰り返したためその回をお蔵入りに。マーヴェリックはAndscapeにその決断の理由をこう説明した。

 「収録の前日にカニエと直接話して、彼が尊厳を持った議論をして、最近の発言について説明する準備ができていると判断しました。残念ながら、彼は『The Shop』をさらなるヘイトスピーチや極めて危険なステレオタイプを繰り返す場所として利用しました。『The Shop』は深く考えられた議論や異なる意見を受け入れています。一方で、いかなる種類のヘイトスピーチも容認しておりません。私たちのチャンネルがヘイトを助長するために使われることは決して許しません。今回の件は、カニエが異なる会話を望んでいると信じた私の責任であり、ゲストとクルーに謝罪します。ヘイトスピーチが聴衆を持つことは決してあってはならないことです」

 カニエとのロングインタビューを行なったポッドキャスト番組『Drink Champs』は、2020年に白人警官に殺されてBlack Lives Matter運動を劇化させたジョージ・フロイドの死因は警察官によって窒息させられたのではなく薬物だというデマをまくしたてる映像を公開したが、その後、「私たちのプラットフォームで誤った物語を広めることはしたくありません」と声明で語り、「フロイド氏のご家族と、この回によって心を痛めた方々にお詫び申し上げます」と謝罪。この放送回を削除した。

画像: 2018年にドナルド・トランプ米大統領(当時)への支持を表明してホワイトハウスに招待されたカニエ・ウェスト。トランプ大統領の政策について細かいことは知らないとしていたが、2020年にはもう支持はしないことを表明した。

2018年にドナルド・トランプ米大統領(当時)への支持を表明してホワイトハウスに招待されたカニエ・ウェスト。トランプ大統領の政策について細かいことは知らないとしていたが、2020年にはもう支持はしないことを表明した。

 10月に入って、Black Lives Matter運動を批判して、ユダヤ系への差別的な発言をし始めてからは、右派から好意的に迎えられているカニエ。

 10月半ばの週末には、白人至上主義者のグループがナチスの敬礼をしながら「ユダヤ人に対するカニエの意見は正しい」というバナーを掲げる姿が目撃された。さらに、親トランプ派として知られ、多くの陰謀論を拡散するキャンダス・オーウェンズがカニエに接近。カニエは保守派が利用するソーシャルメディアのParlerを買うことが10月17日に発表されたが、ダウンロード数が落ち込んでビジネス的に“失敗”だとされているこのアプリは、キャンダスの夫であるジョージ・ファーマーがCEOを務めているビジネス。一部では、「メンタルヘルスの調子が悪いカニエを利用している」と批判する声が出ている。

 カニエを中心に騒動が広がるなか、カニエのエージェント、弁護士、提携相手のアディダスが契約を解消したほか、NFL選手のアーロン・ドナルドとNBA選手のジェイレン・ブラウンがカニエの立ち上げたスポーツエージェント会社Donda Sportsから去ることを発表。これまではエキセントリックな言動も“カニエらしさ”として容認されていたが、人種差別という一線を越えたことで関係者の離脱が続いている。(フロントロウ編集部)

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