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【時系列&解説】カニエ・ウェストのユダヤ系差別騒動とメンタルヘルスの問題

FRONTROW Editorial Dept.
BY FRONTROW Editorial Dept.
【時系列&解説】カニエ・ウェストのユダヤ系差別騒動とメンタルヘルスの問題

不適切な言動を繰り返していたカニエ・ウェスト(本名:Ye)が、エージェント、弁護士、さらには約9年にわたりコラボしてきたアディダスから関係を解消された。今回の騒動を時系列で追うとともに、カニエが長年オープンに語ってきたメンタルヘルスの問題にスポットライトを当てる。(フロントロウ編集部)

※この記事は2022年10月26日22:00に当初公開された記事です。

時系列で振り返る、カニエ・ウェストの差別発言騒動

10月3日 WLMトップスが物議 ― カニエ・ウェストのファッションショーでカニエと数人のモデルが“White Lives Matter”と描かれたトップスを着用。黒人に対する暴力や差別の撤廃を訴える抗議運動「Black Live Matter」に対抗して作られた、白人至上主義を助長する人種差別的なスローガンが登場すると、ジェイデン・スミスは退席。その後、著名なファッションエディターや、モデルのジジ・ハディッドやヘイリー・ビーバーから批判が集まった

10月4日 Supremeデザイナーとバトル ― デザイナーの故ヴァージル・アブローはLVMHのベルナール・アルノーCEOに殺されたと主張。するとシュプリームのデザイナーであるトレマイン・エモリーが、カニエはヴァージルが亡くなる前にヴァージルのデザインに対する悪口を言っていたとSNSで暴露。「君がなぜヴァージルの内輪の葬式に呼ばれなかったかみんなに言ってみろよ」としたうえで、亡きヴァージルの名前を自分の利益のために利用するなとカニエを批判した。

10月5日 カーダシアン家から苦言 ― カニエがSNS投稿を続けるなか、元妻キム・カーダシアンの妹クロエ・カーダシアンが、「ソーシャルメディアでこんなことしたくないけど、あなたがいつもこの場でやるから」として、「もういいから。みんな真実を知っているし、私が思うに、みんなうんざりしていると思うよ」とカニエを批判した。

10月5日 ディディと舌戦 ― ラッパーのディディがカニエの“White Lives Matter”騒動を糾弾。するとカニエはディディに反論するなかで、ディディがユダヤ系の人々にコントロールされているという主張をした。

10月6日 保守派メディアに出演 ― 白人至上主義者に最も人気なニュースキャスターとされる米Fox Newsのタッカー・カールソンとのインタビューに出演。中絶に関する根拠のない主張をしたほか、アーティストのリゾの名前を持ち出して、太りすぎは「黒人の大量虐殺」だとした。

10月6日 アディダスが提携の再検討を開始 ― アディダスが「プライベートな場で解決するための努力を重ねた」ものの、最近のカニエの言動を受けて「パートナーシップを見直す」と声明で発表。これに対してカニエは、「アディダスなんてクソくらえ。俺こそアディダスだ。アディダスは俺のデザインをレイプして盗んだ」とインスタグラムに投稿した。

10月7日 インスタグラムにバンがかかる ― カニエがディディとのDMのスクリーンショットをインスタグラムに連投するなか、その内容がユダヤ系に対する差別を助長するとしてインスタグラムがアカウントの使用を制限。

10月9日 ツイッターにバンがかかる ― インスタグラムのアカウントを制限されたカニエが約2年ぶりにツイッターに復帰。ツイッター買収計画を進めるイーロン・マスクが「ツイッターにお帰り、友よ!」と歓迎したものの、のちに米国最大のユダヤ人団体ADL(名誉毀損防止同盟)が「問題があり、危険であり、反ユダヤ的」と批判したツイートを行ない、カニエのアカウントはすぐにロックされた。

10月11日 取材映像がリークされる ― タッカー・カールソンのインタビューの中でFox Newsが放送できないと判断してお蔵入りにした映像を米Viceが入手してリーク。その中でカニエは、反ユダヤ的な思想を持つ人によって信じられている陰謀論を語っていた。

10月5日 インタビューがキャンセル ― 『The Shop』がカニエとのインタビューを実施するものの、カニエが「ヘイトスピーチや危険極まりないステレオタイプ」を繰り返したため放送をキャンセル。

10月14日 ホロコースト博物館にヘイト ― 「言葉は重要であり、言葉には結果が伴うのです。言葉がいかに恐ろしい暴力や大量虐殺を引き起こすかを理解するために、ぜひLAのホロコースト博物館に足を運んでください」とカニエを招待したLAのホロコースト博物館が、このコメント後、多くの「ヘイト、脅迫、罵詈雑言」をSNSで受けていると明かす。

10月15日 ジョージ・フロイド氏へのデマを拡散 ― 『Drink Champs』で、Black Lives Matter運動を劇化させるきっかけとなったジョージ・フロイドの死因は警官に9分間も首を圧迫されたからではなく、薬物によるものだというデマ(※)を主張。『Drink Champs』はその後このエピソードを削除して謝罪。その後、フロイド氏の遺族はフロイド氏の話題を出さないようカニエに要求。デマを拡散したとして約370億円で訴える予定だとも報じられた。

※郡監察医務院はフロイド氏の死を過剰摂取ではなく心肺停止による殺人だと断定している。その後の裁判に登場した医療専門家も、フロイド氏の死因は膝を首に乗せられたことによる酸素不足と証言した。

10月17日 アイス・キューブが困惑のコメント ― カニエに“反ユダヤ的な影響を与えてくれた人物”と名指しされたラッパーのアイス・キューブが「発言の真意は自分にはわからない」とそれを否定し、「反ユダヤ的な話において私の名前を出さないでください。私は反ユダヤ主義者ではないし、そうだったことは一度もない」とツイート。

10月17日 Parler買収 ― 保守派のソーシャルメディアParlerが、カニエがアプリを買収することを発表。

10月17日 クリス・クオモと激しく議論 ― クリス・クオモの番組に出演し、音楽レーベルのトップはユダヤ系に支配されていると発言。“ユダヤ系によるメディアを操る地下マフィア組織”に関する言及にはクオモが強く反論。「いいですか、ユダヤ系のメディアも陰謀団もマフィアも存在しなんです。それはあなたの想像の産物か、偏見の投影だ。あなたは(音楽レーベルの)誰かと悪い取引を経験したかもしれないが、それはあくまでその人たちのことです」として、それをユダヤ系は全員がそうだと標的にすると「他の人も同じように標的にする可能性がある」と非難した。

10月17日 トランプ陣営からも反応 ― ドナルド・トランプ元米大統領がカニエの最近の言動は「クレイジー」すぎるため「助け」が必要なのではと複数の人に話していると、米Rolling Stoneが報道。

10月19日 再びロングインタビューに出演 ― ピアース・モーガンの番組に出演。「ストレートな白人男性ほど批判される人はいない」と語り、元妻キムについて「私は彼女を一生愛します。不思議なことに、私は彼女を守ります」とコメント。ユダヤ系の人に対する差別的な発言を「後悔するか」という質問には「しない」としたうえで、「傷つけてしまった人には申し訳ないと言おう」と語った。さらに、クエンティン・タランティーノの映画『ジャンゴ 繋がれざる者』は自分のアイディアだったと主張した。

10月21日 バレンシアガが関係を断絶 ― バレンシアガが「バレンシアガはこのアーティストとは関係はなく、今後一緒にプロジェクトを行なう計画もありません」と声明で発表。

10月22日 白人至上主義者たちの集会でカニエへの言及、セレブから一斉に批判の声 ― ロサンゼルスで白人至上主義者たちが行なった集会で、「ユダヤ人に対するカニエの意見は正しい」というバナーが掲げられる。これを受けて、リース・ウィザースプーン、ジェニファー・アニストン、オーランド・ブルーム、ビリー・アイリッシュといったトップセレブたちが続々と反応。元妻キム・カーダシアンからも、「ひどい暴力と憎悪に満ちた発言を直ちに終わらせるよう呼びかけます」という声明が発表された。

10月24日 楽曲の視聴数が激減 ― フィジカルとデジタル、オンデマンド・ストリーミングを含むすべてのカテゴリーにおいてアメリカ国内でカニエの作品のセールスや視聴数が減少しているとLuminateが発表。アルバムのセールスは23%減(10月20日までの前週比)、ラジオでの再生数は13%減と、ロサンゼルスのKIIS-FMなど一部の局では先週の再生数はゼロだったという。

10月24日 エージェントをはじめ契約解除の波が始まる ― カニエのエージェントであるCAAが契約解除を発表。ジョニー・デップの名誉棄損裁判を担当したカミール・ヴァスケスも、カニエの弁護士を降りると報道された。MRC Entertainmentは予定されていたカニエのドキュメンタリーの制作を中止。

10月25日 Adidas Yeezyに幕 ― アディダスが「パートナーシップを直ちに終了し、Yeezyブランド製品の生産を終了し、Yeと彼の企業への支払いをすべて停止する決断を下しました」と声明を発表し、Adidas Yeezyの提携を解消することを発表。

10月25日 Yeezy GAPの商品が撤去へ ― 9月にカニエとのパートナーシップ解消を発表していたGAPも、「最近の(カニエの)発言や行動は、(パートナーシップ終了の)その理由をさらに浮き彫りにしています」としたうえで、全店舗からYeezy Gapの商品を即座に撤去すると発表。yeezygap.comも閉鎖された。

10月25日 “ビリオネア”ではなくなる ― アディダスとのパートナーシップが解消されたことを受けて、米経済紙Forbesがカニエをビリオネア(※総資産が10億ドルを超える人のこと)リストから外す。ForbesはAdidas Yeezyがカニエの資産の多くを占めていたとしていた。

10月25日 プロアスリートがカニエの会社から離脱 ― カニエが立ち上げたスポーツエージェント会社Donda Sportsに所属していたNFLの現役選手アーロン・ドナルドとNBAの現役選手ジェイレン・ブラウンが会社からの離脱を発表。ドナルド選手はインスタグラムで、「最近の憎悪と反ユダヤ主義的な発言と表現」は「自分たちの人生観や子育てにおける思想と真逆である」とした。

10月25日 再びインタビューで反ユダヤ系の主張 ― レックス・フリードマンのインタビューに出演。妊娠中絶に対する根拠のない主張やユダヤ系の人に対する偏見を語り、フリードマン氏に、嫌な経験を実際したならばそれをユダヤ系全体のせいにするのではなくその「個人を批判」するよう求められた。

10月26日 Donda Academyが出場中止に ― カニエが立ち上げた無認可のキリスト教系私立学校Donda Academyのバスケットボール・チームのトーナメント出場が中止となる。この対応には、“子どもに責任はないのに”と批判する声も強い。

10月26日 Sketchersを突撃訪問 ― アメリカで3番目に大きいスニーカー会社スケッチャーズをアポなし訪問。幹部と話した後に追い出されたカニエ。創業者がユダヤ系であるスケッチャーズはその後、「スケッチャーズはカニエと一緒に仕事をすることは考えていませんし、そのつもりもありません。彼の最近の社会を分裂する発言を非難し、反ユダヤ主義やその他のいかなる形のヘイトスピーチも容認しません」と声明を出した。

10月26日 Footlocker  ― アメリカで3番目に大きいスニーカー会社スケッチャーズをアポなし訪問。幹部と話した後に追い出されたカニエ。創業者がユダヤ系であるスケッチャーズはその後、「スケッチャーズはカニエと一緒に仕事をすることは考えていませんし、そのつもりもありません。彼の最近の社会を分裂する発言を非難し、反ユダヤ主義やその他のいかなる形のヘイトスピーチも容認しません」と声明を出した。

10月27日 ブランドが続々とカニエ離れ ― 前日のFootlockerに続き、TJ Maxxもカニエの商品の展開を取りやめると発表。ほかに、AppleがカニエのEssentialsプレイリストを取り下げ、英マダム・タッソー館がカニエのろう人形を展示から除外。家庭用エクササイズバイクのPelotonはクラスでカニエの曲を使用しないと発表した。

10月27日 ヒトラーへの憧れ ― CNNの取材を受けた複数の関係者が、カニエが以前からヒトラーやナチスに一種の憧れを抱いていたと証言。

騒動の背景にある、カニエ・ウェストのメンタルヘルスの問題

カニエ・ウェストと「双極性障害」の関係

 現在45歳のカニエ・ウェストが双極性障害と診断されたのは39歳の時。当時セイント・パブロ・ツアーを行なっていたカニエは、周囲を心配させる言動を繰り返し、精神科に非任意入院させられた。当時、妻だったキム・カーダシアンの母クリス・ジェンナーはカニエの状態について「疲労がたまっているだけ」としていたが、精神科に長期入院していたことをのちにカニエ自身が認めた。

2016年のセイント・パブロ・ツアーより。

 厚生労働省は双極性障害について「ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態」を繰り返す病気だとしており、日本では100人に1人が双極性障害と共に生きているとされている。米国精神障害者家族連合会(NAMI)は双極性障害の兆候として、幻覚、妄想、気分の急速な高揚や苛立ち、予測不能な行動、異常に危険な判断などを挙げられており、「躁状態の人は、ほとんどの場合、自分の行動がもたらす負の影響に気づいていません」と説明している。

 カニエ自身は、双極性障害の“エピソード(発作/発症)”について「双極性障害を抱えている人のなかには気分が落ち込む人もいるけど、自分はハイになる」と2018年に『ジミー・キンメル・ライブ』で説明。そして、2019年の『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』では、「この状態にいるときは、すべてに対して、全員に対して、超疑心暗鬼になるんです。これはあくまで私の体験であって、他の体験をしている人もいると思いますが、(この状態にいるときは)誰もが俳優で、すべてが陰謀に思えるのです。すべてが見えるように思える。政府が自分の頭にチップを埋め込んだと思い、自分が撮影されていると感じるのです」「みんなが自分を殺そうと思っていると感じ、誰のことも信用できなくなる」と明かした。

 2014年から2022年までカニエと婚姻関係にあったキム・カーダシアンは2020年にインスタグラムでカニエの双極性障害に触れて、「このような状況にある人、あるいは愛する人がいる人は、それがどれほど複雑でつらいことなのかを理解しているはずです」としたうえで、カニエは「優秀だが複雑な人物」であり、「言葉と意図が一致しないこともある」ため誤解を受けやすいと擁護した。

カニエの発言は真意なのか?メンタルヘルスのせいなのか?

2021年のアルバム『DONDA』のリスニングパーティーより

 双極性障害の症状がひどいときは、落ち着いている時とは異なる考えや感情が湧くことを認めているカニエ。それだけに、カニエが“奇行”とされる言動を繰り返したときには、“メンタルヘルスの問題を抱えているから”と寛大な解釈がされてきた。これについてはキム・カーダシアンも、「私たちは社会全体でメンタルヘルスの問題に寛大になるべきだと言っていますが、それと同時に、最も必要とされる時に、それを抱えて生きている人に寛大になるべきなのです」と過去にインスタグラムで語り、「寛大」な対応を世間に求めた。

 しかし一方で、カニエ自身はそれに対して不満を漏らし続けている。『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』では、「セレブリティとして言ってほしくないことを僕が言ったら、『彼はクレイジーなだけだ』と言われる」と説明。さらにポッドキャスト番組『Drink Champs』の中では、「何かについて間違っている、真実を隠している、あるいは嘘をついていると言いたいときはいつでも、『Yeはクレイジーだ』と言うのです。聞く耳を持たないための、まさに究極の最後の切り札ですよ」と主張した。

今回のカニエの言動には、多くのトップセレブが抗議の声を挙げている。俳優のジェニファー・アニストンは、「メンタルヘルスは偏見や反ユダヤ主義の言い訳にはなりません」とするツイートを引用した。

 ちなみにカニエは、レターマンの番組で「一定の状態を保てるように毎日薬を飲まないと、入院が必要なほど興奮した状態になってしまい、“異常な状態”がはじまる」と薬の効力を認めているが、2018年と2019年の時点で薬の服用をしていないことを明かしている(現在の状態は不明)。

 これは、“薬を飲むと本当の自分ではない”という考えがもとになっているようで、2019年に当時の妻キムは「彼にとって薬を飲むことは、自分という人間を変えてしまうことになるので、選択肢としてないのです」と米Vogueで説明。さらにキムはインスタグラムで、「相手が未成年でない限り、(助けを与えるという意味で)家族は無力であることを知っています」「家族や友人がどんなに努力しても、本人が助けを得るプロセスに参加しなければならない」と、本人の同意なしでの治療の難しさを明かした。

 カニエはと言うと、「薬を飲んでいて、『Watch the Throne』や『Dark Fantasy』のようなレベルの曲が作れるわけがない」と2018年にツイート。レターマンの番組では、薬の服用をしないことを「提唱しているわけではない」とはっきり明言したうえで、「クレイジーなアイディア、クレイジーなステージ、クレイジーな音楽、クレイジーな思想がほしいと言うなら、それはクレイジーな人から生まれる可能性はあるんじゃないか」と語った。

 米国立精神衛生研究所(NIMH)や米国精神障害者家族連合会(NAMI)は双極性障害の治療法として薬物療法と心理療法を挙げており、『デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター』では司会者がカニエのこの発言に「それは医療関係者を怒らせると思う」としたうえで、「自分も薬の服用を何年も拒んできた。『これが自分で、この自分のおかげでここまで来られた。だったらなぜ薬でそれを台無しにするんだ』と思っていたのです。しかし実際に薬を飲んでみたら、逆に、クリエイティブなプロセスにおいて障害になっていたことが(服用のおかげで)なくなったことに気がついた」と自身の体験を明かした。

 セレブリティ界では、セレーナ・ゴメス、マライア・キャリー、メル・ギブソン、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、デミ・ロヴァート、ビービー・レクサなどが双極性障害であると公表している。最近メンタルヘルスの会話を多くリードしているセレーナは、「助けを求め、信頼できる人を見つける方法があることに気づいたのです。適切な薬を服用するようになり、私の人生は完全に変わりました。」と2020年にWSJ Magazineに語っていた。

影響力を持つセレブが発信するヘイトスピーチ…今回の件で2つだけ明確な「間違い」

今回の件で2つだけ明確なこと

 カニエ・ウェストはメンタルヘルス面で複雑な事情を持つわけだが、最近の件では、2つだけはっきりしていることがある。

 1つめが、カニエの最近の発言がメンタルヘルスの悪化が原因であろうがなかろうが、人種差別的な発言は許されないということ。過去には「寛大」な対応を願っていた元妻のキムも、今回は「ヘイトスピーチは決して許されないし、言い訳の余地はありません」と公にカニエの言動を批判した。

2014年~2022年に婚姻関係にあったカニエとキムには4人の子どもがいる。キムは2022年3月にトーク番組『エレンの部屋』でたびたび不適切な言動をするカニエに触れ、「彼は私の子どもの父親です、私はいつも彼を守ります」と語っていた。

 そして2つめは、メンタルヘルスの問題を抱えているかもしれない人物がヘイトスピーチを繰り返しているときにわざわざ“演説”をする場所を与えるべきではないということ。カニエと“ビーフ(喧嘩)”しているとされたテレビ司会者のトレヴァー・ノアは、「メンタルヘルスの問題を抱えていると公に言っている人とはビーフはしない」としたうえで、「僕がビーフをしたいのは、(メンタルヘルスの問題を抱えたカニエを)助けるために、『今は彼の前にマイクを突きつけて何でもかんでも言えるようにするタイミングじゃないでしょう』と言わない社会」だと自身の番組で語った。

 また、最近のなかでは、「ヘイトスピーチが聴衆を持つことは決してあってはならない」としてカニエのインタビューを“放送しない”と決断したトーク番組『The Shop』の対応は賞賛に値するのではないだろうか。NBA選手レブロン・ジェームズと実業家のマーヴェリック・カーターの番組である『The Shop』は、数週間前から決まっていたというカニエとのトーク回を収録したものの、カニエが番組内で人種差別的な主張を繰り返したためその回をお蔵入りに。マーヴェリックはAndscapeにその決断の理由をこう説明した。

 「収録の前日にカニエと直接話して、彼が尊厳を持った議論をして、最近の発言について説明する準備ができていると判断しました。残念ながら、彼は『The Shop』をさらなるヘイトスピーチや極めて危険なステレオタイプを繰り返す場所として利用しました。『The Shop』は深く考えられた議論や異なる意見を受け入れています。一方で、いかなる種類のヘイトスピーチも容認しておりません。私たちのチャンネルがヘイトを助長するために使われることは決して許しません。今回の件は、カニエが異なる会話を望んでいると信じた私の責任であり、ゲストとクルーに謝罪します。ヘイトスピーチが聴衆を持つことは決してあってはならないことです」

 カニエとのロングインタビューを行なったポッドキャスト番組『Drink Champs』は、2020年に白人警官に殺されてBlack Lives Matter運動を劇化させたジョージ・フロイドの死因は警察官によって窒息させられたのではなく薬物だというデマをまくしたてる映像を公開したが、その後、「私たちのプラットフォームで誤った物語を広めることはしたくありません」と声明で語り、「フロイド氏のご家族と、この回によって心を痛めた方々にお詫び申し上げます」と謝罪。この放送回を削除した。

2018年にドナルド・トランプ米大統領(当時)への支持を表明してホワイトハウスに招待されたカニエ・ウェスト。トランプ大統領の政策について細かいことは知らないとしていたが、2020年にはもう支持はしないことを表明した。

 10月に入って、Black Lives Matter運動を批判して、ユダヤ系への差別的な発言をし始めてからは、右派から好意的に迎えられているカニエ。

 10月半ばの週末には、白人至上主義者のグループがナチスの敬礼をしながら「ユダヤ人に対するカニエの意見は正しい」というバナーを掲げる姿が目撃された。さらに、親トランプ派として知られ、多くの陰謀論を拡散するキャンダス・オーウェンズがカニエに接近。カニエは保守派が利用するソーシャルメディアのParlerを買うことが10月17日に発表されたが、ダウンロード数が落ち込んでビジネス的に“失敗”だとされているこのアプリは、キャンダスの夫であるジョージ・ファーマーがCEOを務めているビジネス。一部では、「メンタルヘルスの調子が悪いカニエを利用している」と批判する声が出ている。

 カニエを中心に騒動が広がるなか、カニエのエージェント、弁護士、提携相手のアディダスが契約を解消したほか、NFL選手のアーロン・ドナルドとNBA選手のジェイレン・ブラウンがカニエの立ち上げたスポーツエージェント会社Donda Sportsから去ることを発表。これまではエキセントリックな言動も“カニエらしさ”として容認されていたが、人種差別という一線を越えたことで関係者の離脱が続いている。(フロントロウ編集部)

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