2022年の洋楽シーンを総ざらい。米Billboardの全米シングルチャートや全米アルバムチャートで首位を獲得した作品を基に、7つの独自の視点から今年の洋楽シーンを振り返ってみた。(フロントロウ編集部)

①ポップアイコンとして君臨したハリー・スタイルズ

ハリー・スタイルズ
『ハリーズ・ハウス』全米アルバムチャート2週1位
「As It Was」全米シングルチャート15週1位

 2022年のポップミュージックを振り返る冊子を作るとしたら、その表紙には間違いなくハリー・スタイルズの写真が載るだろう。ワン・ダイレクションとしてデビューして世界一のボーイバンドとなったハリーがついにソロでもポップアイコンとなった。4月16日付のチャートにおいて「As It Was」で自身2曲目となる全米1位を獲得すると、その後、同曲は通算15週にわたって1位を獲得。ほとんど1年の3分の1の期間にわたって1位をキープするという快挙を成し遂げた。さらには、世界を代表する音楽フェスの1つであるコーチェラでヘッドライナーを務めたり、全米ツアー44公演を即完させたりと、パフォーマーとしても圧倒的な人気を獲得。

 日本発のYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で洋楽アーティストとして単独では初めてパフォーマンスを披露したことでも話題になったが、そんなハリーは2023年3月に4年ぶりとなる来日公演が決定している。2022年のポップミュージックを制した勢いを2023年の日本の洋楽シーンに持ち込んでくれることを期待したい。

②女性たちが力強くエンパワーしてくれた夏

リゾ
「About Damn Time」全米シングルチャート2週1位

 今年の夏は3人の心強い女性アーティストたちが続々と全米シングルチャートを制し、セルフラブのメッセージでエンパワーしてくれた、ウーマンパワーに満ちた夏だった。まず、7月30日付のチャートの首位に「About Damn Time」を送り込んで、堂々とシーンにカムバックを果たしたのは、3年ぶりとなるニューアルバム『スペシャル』を今年リリースしたリゾ。同作はボディポジティブのアイコンでもあるリゾらしい、“ありのままのあなたが特別”というメッセージが込められた、前向きになれる明るいバイブス全開の1枚で、渋谷にある銭湯・改良湯とのまさかすぎるコラボも話題になった。

ビヨンセ
『ルネッサンス』全米アルバムチャート1週1位
「BREAK MY SOUL」全米シングルチャート2週1位

 そして、2週にわたって1位をキープしたリゾの「About Damn Time」に取って代わる形で、こちらも2週連続で1位を獲得することとなったのがビヨンセの「BREAK MY SOUL」。この曲が収録された6年ぶり通算7作目のアルバム『ルネッサンス』で、ビヨンセは米アルバムチャートでは史上初めて7作連続で初登場1位を獲得した女性アーティストに。黒人LGBTQ+コミュニティにトリビュートを捧げた本作で、ビヨンセは来年の第65回グラミー賞授賞で今年度最多となる9部門にノミネートされており、主要部門をめぐって再びアデルと争うことが大きな注目を集めている。

ニッキー・ミナージュ
「Super Freaky Girl」全米シングルチャート1週1位

 そして、8月の最終週付のチャートで首位を獲得したのが、ニッキー・ミナージュによる「Super Freaky Girl」。2019年にリリースした「Megatron」以来、3年ぶりのソロ・シングルとなった同曲でニッキーはシーンに華麗にカムバック。今年のMTVビデオ・ミュージック・アワードでは、これまでの多大な功績が称えられて特別賞であるヴァンガード賞を受賞したニッキー。授賞式でメンタルヘルスの重要性を訴えたスピーチも話題になった。

③クィア・アーティストたちに戴冠

スティーヴ・レイシー
「Bad Habit 」全米シングルチャート3週1位

 2021年はゲイであることを公表しているリル・ナズ・Xが全米シングルチャートの首位に2曲を送り込んだが、今年もLGBTQ+のコミュニティから全米1位シングルが生まれることとなった。ジ・インターネットのメンバーで、バイセクシャルであることを公言しているスティーヴ・レイシーは自身初の全米1位シングルとなった「Bad Habit 」で3週にわたって1位をキープ。来年の第65回グラミー賞授賞で年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲という主要2部門を含む4部門にノミネートされるなど、一躍ブレイクした。

サム・スミス&キム・ペトラス
「Unholy」全米シングルチャート1週1位

 ノンバイナリーであるサム・スミスとトランスジェンダーであるキム・ペトラスの2人が、初めてコラボしたクィア・アンセム「Unholy」で、それぞれオープンリー・ノンバイナリーとオープンリー・トランスジェンダーとして史上初めて全米シングルチャートで1位を獲得。LGBTQ+コミュニティにとってのマイルストーンを達成した。

ついに覚醒の予感漂うダヴ・キャメロン

画像1: フロントロウは2022年の洋楽をこう見た!編集部が注目した今年の全米チャート7つのポイント

 2022年に台頭したアーティストとしては、バイセクシャルであることをオープンにしているダヴ・キャメロンの躍進も見逃せない。ダヴは「私なら彼よりも素敵なボーイフレンドになれるよ」と、女性への恋心を歌った「Boyfriend」が自身最大のヒット曲に。さらには、男性優位の現代社会への皮肉をたっぷり込めたMVも大きな話題になった「Breakfast」も大ヒット。

 グラミー賞にこそノミネートされなかったものの、ダヴは今年様々な音楽賞で新人賞にノミネート。MTVビデオ・ミュージック・アワードで新人賞を受賞した際には同賞をクィアの若者たちに捧げたり、アメリカン・ミュージック・アワードで新人賞を受賞した際にはLGBTQ+向けのナイトクラブで起きた銃乱射事件に言及したりと、LGBTQ+コミュニティを代表してメッセージを発信した。2023年には待望のデビューアルバムがリリースされることはあるのか? 来年もダヴの動向から目が離せない。

④『アナ雪』超えのディズニーソングが誕生

映画『ミラベルと魔法だらけの家』
『オリジナル・サウンドトラック』全米アルバムチャート9週1位
「秘密のブルーノ」全米シングルチャート5週1位

 ついにディズニーから『アナと雪の女王』の「Let It Go~ありのままで~」を超えるヒット曲が誕生した。オリジナル・サウンドトラックも通算9週にわたって全米アルバム1位を獲得するなど、大ヒットとなった『ミラベルと魔法だらけの家』の挿入歌「秘密のブルーノ(We Don't Talk About Bruno)」が、通算5週にわたって全米シングルチャートの1位をキープ。同チャートにおけるディズニーソングのこれまでの最高位は「Let It Go~ありのままで~」が獲得した5位だったため、「秘密のブルーノ」はディズニーソングとして初めて首位に立つこととなった。

リアーナを復活させたディズニー

画像2: フロントロウは2022年の洋楽をこう見た!編集部が注目した今年の全米チャート7つのポイント

 「秘密のブルーノ」ほどチャート上で大成功は収めなかったものの、今年はディズニーが自分たちの作品のテーマソングに大物アーティストを起用する動きが目立った。とりわけ大きな注目を集めたのが、MCU映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』にリアーナが楽曲を提供したこと。リアーナはこのために6年ぶりにソロでの音楽活動にカムバックし、「Lift Me Up」と「Born Again」という感動的な2曲を提供した。

 そして、2022年を締め括る超大作映画となった『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のサウンドトラックにはザ・ウィークエンドが参加。今年のコーチェラで共にヘッドライナーを務めたスウェディッシュ・ハウス・マフィアと手がけた「Nothing Is Lost(You Give Me Strength)」を提供した。

 加えて、本人たちは劇中で歌唱していないものの、3月からディズニープラスにて配信されているピクサー映画『私ときどきレッサーパンダ』には、今年8月に待望の初となる単独来日公演が大盛況だったビリー・アイリッシュと兄フィニアスがソングライターとして参加。同作に登場するボーイズグループ、4★TOWNの楽曲を書き下ろした。

⑤ラテンが大躍進&今年も強かったK-POP

バッド・バニー
『ウン・ベラーノ・シン・ティ』全米アルバムチャート13週1位

 今年の全米アルバムチャートで最も長い期間1位をキープしていたのは、プエルトリコ出身のシンガーであるバッド・バニーによる『Un Verano Sin Ti(ウン・ベラーノ・シン・ティ)』だった。同作を通算13週にわたって全米アルバムチャートの首位に送り込んだバッド・バニーは、米Billboardによる年間のアルバムチャートをラテンのアルバムとして初めて制するという快挙も達成。Apple Musicによるアーティスト・オブ・ザ・イヤーにも輝くなど、2022年に世界で最も注目を集めたアーティストとなった。

 ラテンに関連した動きとしては、他にも、スペイン出身のシンガーであるロザリアがリリースした『モトマミ』が批評的な成功を収めるなど、2022年はラテンの躍進が例年以上に目立つ年に。クリスティーナ・アギレラがスペイン語の2枚のEP『La Fuerza(ラ・フエルザ)』と『La Tormenta(ラ・トルメンタ)』をリリースするという動きもあった。フロントロウ編集部では、欧米の音楽シーンにおけるラテンの台頭を支える筆頭の1人である、コロンビア出身のマルーマにインタビューを敢行。ラテンのレプリゼンテーションなどについて語ってもらった。

BLACKPINK
『BORN PINK』全米アルバムチャート1週1位

 2021年に3曲で全米1位を獲得したBTSは今年はシングルでこそ首位を獲得できなかったが、アルバム『Proof』が全米アルバムチャートの1位を獲得。さらに、BLACKPINKがアルバム『BORN PINK』で、Stray Kidsが『ODDINARY』と『MAXIDENT』の2作で全米1位を獲得するなど、今年もK-POPが強さを示すことに。

 2022年はコーチェラにアジア系のレーベルである88ライジングのステージが登場して、ここ日本からも宇多田ヒカルやきゃりーぱみゅぱみゅが参加するなど、アジアの音楽とアメリカの音楽が接近した年でもあった。フロントロウ編集部では、そのコーチェラに出演した日本出身のアーティストであるリナ・サワヤマにもインタビューを行ない、欧米におけるアジア系アーティストの台頭などについて語ってもらった。

⑥コロナ禍で沸点に達した“人恋しさ”が生んだロングヒット

グラス・アニマルズ
「Heat Waves」全米シングルチャート5週1位

 新型コロナウイルスによるパンデミックから2年以上が経過し、以前よりも会いたい人に会えるようになってきたなかで、人々の中にくすぶっていた“人恋しさ”がジワジワと沸騰していった結果、全米1位を獲得することとなったのが、なんと初のチャートインから59週を経ての1位という歴代記録を打ち立てることとなった、グラス・アニマルズの「Heat Waves」だった。

 フロントロウ編集部はそんな絶好調だったタイミングでグラス・アニマルズにインタビューを実施。「Heat Waves」のデモを最初に聴いたのはジョニー・デップだったというエピソードも飛び出したインタビューで、フロントマンであるデイヴ・ベイリーは同曲のヒットについて、「世界各地でロックダウンになって、移動できなかったり、大切な人や愛する人たちに会うことができなかったりという状況に置かれたことで、偶然、誰もがこの曲の歌詞で描かれている感情を経験したことがある、というような状況になったのではないかと思っています」と分析してくれた。

ポップスターたちが続々と待望の来日

 徐々に通常の日常に戻ろうとしていた2022年には、ホールジーらがヘッドライナーを務めて3年ぶりに洋楽アーティスト込みのラインナップが実現したFUJI ROCK FESTIVAL’22や、The 1975とポスト・マローンをヘッドライナーに据えて3年ぶりに開始されたサマーソニックを筆頭に、パンデミック以来、久しぶりに来日公演が多く実現した年でもあった。

画像: ©️Masanori Naruse

©️Masanori Naruse

 とりわけ、夏から秋にかけて続々と大物アーティストたちの来日公演が実現。ビリー・アイリッシュやレディー・ガガ、ブルーノ・マーズ、ガンズ・アンド・ローゼズ、アヴリル・ラヴィーン、ケイティ・ペリー、KISS、マルーン5らが久しぶりに日本のステージに立った。

⑦最後に全部持っていったテイラー・スウィフト

テイラー・スウィフト
『ミッドナイツ』全米アルバムチャート5週1位
「Anti-Hero」全米シングルチャート6週1位

 そして、今年もやっぱりテイラー・スウィフトは強かった。10月21日に通算10作目となる最新アルバム『ミッドナイツ』をリリースすると、なんと全米シングルチャートのトップ10を独占するという、史上初の快挙を達成。その後、久しぶりとなるツアーThe Era Tourを発表すると、プリセールがスタートしたタイミングでチケットマスターに「類を見ない需要」とする数百万のアクセスが集中し、ダウンするという前代未聞の事態に。圧倒的な人気と実力で音楽界に衝撃的なニュースを届けてくれた。

 他にも、ジャック・ハーロウの「First Class」やドレイク&21サヴェージ「Jimmy Cooks」が1位を獲得した今年の全米シングルチャート。同チャートの1位に今年最長の期間にわたってランクインしていたのはハリー・スタイルズの「As It Was」だったが、2023年の初春からそのハリーを日本でも観られるというのは改めて嬉しい。まだパンデミックは収束していないが、一度は閉ざされてしまった海外アーティストの生ライブへのアクセスが、2022年に入ってからはパンデミック前のような状況に戻りつつある。来年はどんなヒット曲が生まれるのかを楽しみにしつつ、今年の後半のように海外アーティストたちが続々と日本にやって来てくれることを期待したい。(フロントロウ編集部)

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