海外ではどれだけ普及している? フェス、アーティスト、会場の取り組み
アメリカでは「障害のあるアメリカ人法(ADA)」という法律のもと、コンサートやフェス会場には、聴覚障害者のために手話通訳士を手配する義務がある。ただ多くの聴覚障害者が改善を求めているのが、“通訳士が欲しいと求めたら提供されるが、逆に求めないと提供されない場合が多い”ということ。必要だと毎回言わせる責任を聴覚障害者側にたくすのではなく、いることがスタンダードである状態にするべきだという声が多い。
![画像: イギリスのフェスティバルであるグラストンベリーのステージには、イギリス手話(BSL)の手話通訳さんが立った。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783100/rc/2023/02/15/3112ed6b1887318b8da9beb77a0934db69befcb2_xlarge.jpg)
イギリスのフェスティバルであるグラストンベリーのステージには、イギリス手話(BSL)の手話通訳さんが立った。
欧米を見ていると、単独コンサートではいたりいなかったりだが、コーチェラやロラパルーザなど大型フェスティバルでは見かけるようになってきた。また、会場が全公演での手話通訳士の起用にコミットしている場合もある。イギリスのウェンブリー・スタジアムは、すべてのライブコンサートでイギリス手話(BSL)のサービスを提供すると2021年に宣言。これを常設サービスとした英国最大の会場となった。
![画像: 英ウェンブリー・スタジアムでは、サッカーの試合の国歌斉唱を含めて、すべてのライブコンサートでイギリス手話(BSL)が提供されている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783100/rc/2023/02/15/5337d9d7088fda03e32c1e89e11eee7d859ccfc4_xlarge.jpg)
英ウェンブリー・スタジアムでは、サッカーの試合の国歌斉唱を含めて、すべてのライブコンサートでイギリス手話(BSL)が提供されている。
そして、アーティストが手配するというケースもある。チャンス・ザ・ラッパーは2017年のBe Encouragedツアー中に、手話通訳士がいないアリーナもあることを理由に、著名なヒップホップアーティストとしては初めて手話通訳士をツアースタッフに起用した。また、英バンドのコールドプレイは、全公演で聴覚障害者をサポートすると2022年に発表。コンサート手話通訳士を起用すると同時に、SUBPACという、振動を通して低音などを感じることができるウェアラブルベストを提供するとした。
![画像: 聴覚障害者にアクセスしやすいツアー公演にコミットしているコールドプレイ。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783100/rc/2023/02/15/3ded690511429b8c53adf73aeb6e455eb5254dac.jpg)
聴覚障害者にアクセスしやすいツアー公演にコミットしているコールドプレイ。
![画像: 第60回グラミー賞授賞式では、ピンクと手話通訳士のバラード曲での共演が話題になった。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783100/rc/2023/02/17/9c0f38a123e87f9704980b3a3e53cf051c0c01d8_xlarge.jpg)
第60回グラミー賞授賞式では、ピンクと手話通訳士のバラード曲での共演が話題になった。
日本でも「#コンサートに手話通訳士を」求める声
日本でも、アーティスト側の意向で手話通訳士を起用するコンサートが少しずつ出てきている。とはいえ、それも一部での話。
日本国内でコンサート開催に関わる音楽関係者に何人か取材したところ、コンサート手話通訳士についての認識は全員が持っていた。ただ、「仕事として(コンサート手話通訳士がいる現場を)経験したことはありません。(アーティスト側からの)手配の依頼も自分の経験上はないです」(関係者A)、「関係するコンサートで手話対応は現在のところありません」(関係者B)という回答で、多くのコンサートに関わる音楽関係者の間でも遭遇したことがないほど、日本のコンサートシーンでは手話通訳士の起用はまだ珍しいのだ。
![画像: 日本でも「#コンサートに手話通訳士を」求める声](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783100/rc/2023/02/15/83aae1be5d4eeb786945421906ff25f34def556f_xlarge.jpg)
ただ、この現状を変えるための活動も行なわれている。SNSで「#コンサートに手話通訳士を」というハッシュタグを立ち上げたのは、ツイッターで「なむちゃん」というハンドルネームで発信しているいる、聴覚障害があり手話が第一言語である当事者の方。なむちゃんさんは曲についてはダンスや振動で楽しめるものの、MCは何を言っているか一切分からず、いつもコンサートの後にツイッターなどのSNSを確認して把握することが多いという。
なむちゃんさんはこう話す。「耳が聞こえないため聴者のように情報が耳から入ることができません。聴覚障がい者の場合は、情報は目から入るので、見える情報保障が必要です」。こういう話題になると、一部で“特別扱いはできない”という声が出ることがある。しかし現時点で、すでにコンサートでの情報提供において聴者と聴覚障害者の間には差がついてしまっている。そこを平等にして欲しいというのがなむちゃんさんの思いだ。「特別扱いをしてくれと言うことではありません。コンサートでは全員が同じ料金を払っています。同じ料金を払っているのに同じ情報量が得られない」と語るなむちゃんさんは、「聴覚障がい者でもコンサートを楽しむ権利はあります」とフロントロウ編集部に続けた。