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聴覚障害者にとってライブ体験をよりアクセシブルにする手助けをするコンサート手話通訳士たち。海外のコンサートではどれだけ普及しているのか? そして、日本の現状は? 海外の事情を調べるとともに、音楽関係者や当事者に取材した。(フロントロウ編集部)

賛同のDM集まるが、関係各所から具体的な対応は乏しい

 そこで、2022年にSNSで「#コンサートに手話通訳士を」というハッシュタグと共に声を挙げたなむちゃんさん。「同じように悩んでいるろう者や、事務所や運営へ問い合わせの協力をしてくださる聴者からたくさんのDMをいただきました」と語り、障害者のための相談窓口や、会場がある地域の障がい福祉課、権利擁護グループにも相談しながら「少しずつですが進展しています」という。ただ現時点で、なむちゃんさんが手話通訳士のいる公演に行けた回数はゼロ

画像: 賛同のDM集まるが、関係各所から具体的な対応は乏しい

 アーティストのファンクラブに連絡すると会場に連絡するよう言われ、連絡をした複数の会場からは「できない」「難しい」「関係各所に連携し改善に努める」といった返事ばかりだという。また、連絡が返ってこなくなるケースも多い。手話通訳士の手配や費用は当事者の方で対応して欲しいとされた場合もあるという。ちなみにアメリカでは、手話通訳士の手配を拒むことも、当事者に費用を負担させることも、処罰の対象。「障害のあるアメリカ人法」で、手話通訳士の手配も費用の負担も事業者の法的義務として明記されているからだ。日本には障害者差別解消法があり、民間の事業者は障害を持つ人に合理的配慮を提供することが求められている。ただ、これまで民間事業者については合理的配慮は法的義務ではなく努力義務とされており、改正を求める声が強かった。そこで、2021年5月の改正で合理的配慮が民間企業でも法的義務となった。改正法は、公布日である2021年6月4日から3年以内に施行される。

 またなむちゃんさんは、当事者が手話通訳士を手配すれば車いすスペースに案内できると言われたこともあるという。「聴覚障がい者なのになぜ車椅子スペースへの案内になるのか疑問です。正直、車椅子スペースへの案内となると、車椅子の方が余計に見にくくなるのではないかと心配です。そして私たちがそこへ座ると、側から見た人たち(聴者)に『なぜ車椅子じゃないのにそこにいるの?』『障がい者を演じてるの?』と誤解を生んでしまうかもしれないし、批判されるかもしれない。そこについても運営側は考えて配慮してほしいです」。

「今後増えてくると思います」エンタメ事業者の取り組みに期待

 ただ、日本の音楽関係者に聴覚障害を持つオーディエンスの存在がまったく認知されていないというわけではないよう。今回の取材からは、日本国内での具体的なアクションの必要性が感じられると同時に、音楽関係者の間で少しずつながらも、聴覚障害者へのサポートの必要性に対する認知が上がってきていることも感じられた。

 国内のコンサート運営に携わる関係者Bは、「コンサート業界全体で、聴覚障害をもった方々への対応を考えていきましょうという流れはあるので、今後増えてくると思います」と、その内情を語った。また、アーティスト側に関わる音楽関係者Cは、True Colors Festival THE CONCERT 2022で手話通訳士のパフォーマンスを生で観た時の衝撃を明かし、「通訳者としてだけではなく、音楽の表現者としての需要がある」と感じたという。

コンサート手話通訳士、日本らしい発展をしていくか?

 そして、今後、日本で手話通訳士の起用が拡大してきたら、“日本らしい手話通訳”が確立される予感もしている。日本と欧米ではライブ観客の聴き方が大きく異なることは有名。その観客の違いが手話通訳士のパフォーマンスに現れていたと、True Colors Festivalの青木氏は明かす。

 「国際手話チームは、たとえ楽器演奏のみでも、ダンスのみでも舞台に立ち続け、観客に伝わるように手話で表現をしたいという姿勢でした。一方で、日本手話チームは、楽器演奏やダンスのパートは、演奏家やダンサーの動きに集中して楽しんでいただいた方が良い場面であり、その時間は手話パフォーマーは舞台から降りて観客には演者に注目してもらいたいという姿勢でした。THE CONCERTでは、それぞれのチームの姿勢をそのまま受け止め、尊重して、それぞれのチームの希望するとおりに進行しましたので、たとえば楽器演奏では国際手話パフォーマーだけが舞台に残るようなイレギュラーな場面が生じました。両チームの姿勢について、一概に、どちらが良いとか正しいとかは言い難いと思います。また、単純に手話パフォーマー側が決めるものというよりは、観客側の期待が何なのかを推察して舞台全体の演出として手話をどうするのかを考えなければなりません。つまり、欧米と日本の観客の感覚のちがいがそれぞれの姿勢に反映されていると言えるかもしれません」。

 独特のライブコンサート文化がある日本で、手話通訳にはどのような日本らしさが反映されていくのだろうか?

 近年日本では、民間企業のSDGsへの取り組みが活発だ。そんなSDGsでは、障害者を取り残さない社会づくりも課題のひとつとなっている。とくに音楽は、さまざまなバリヤを超えて多様な人々を繋ぐエンターテイメント。そんな業界から、イノベーションを推し進めることに期待をしたい。(フロントロウ編集部)

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