リッキー・マーティン所属のメヌードからはレイプ告発
“16歳になったら脱退して若いメンバーと入れ替わる”というルールで結成されたプエルトリコのボーイズグループであるメヌード。リッキー・マーティンを排出したことや、日本ではモーニング娘。の運営方針に影響を与えたことでも知られているメヌードでは、性的・身体的・精神的な虐待が常態化していたことを多くのメンバーが認めている。
11歳でバンドに参加したアンジェロ・ガルシアは、ドキュメンタリー番組『Menudo: Forever Young』のなかで、ホテルの部屋でお酒を渡されたあとに記憶がなくなり、「起きたら裸で、出血していた。だから、挿入されたのだと分かった」と明かした。アンジェロは同番組のなかで、相手は明かさなかったものの、グループの関係者に複数回にわたってレイプされたと発言。また、番組に出演したほかのメンバーたちからも性的暴力の加害があったと証言が出た。
また、ロイ・ロセロはメヌードに所属中に、グループを作ったエドガルド・ディアズから性的暴行を受けたと、ドキュメンタリー番組『Menendez + Menudo: Boys Betrayed』で告発。ある時には、ディアズに連れられて、グループが契約していたレコード会社RCA Recordsの代表だったホセ・メネンデスの家に行き、ドラッグを服用させられてレイプされたと語った。ロイに告発されホセは、1989年に妻と一緒に射殺されて死亡。2人を射殺したのは夫妻の21歳と19歳(当時)の息子たちで、彼らは、父親から長年性的暴行を受けていたと裁判で明かした。
未成年の「無知」と「恐怖」につけこむ大人たち
業界の大人からの不適切な行為を告発した人の証言からは、加害者たちが、マッサージやレスリングといった行為で境界線を曖昧にする、業界ではこれが普通だと思わせるなど、まだ社会経験の浅い子どもたちの無知につけこんで犯行を行なっている様子が見えてくる。
例えば、タオル1枚を身に着けたパールマンからレスリングと称して下半身を見せられたことを明かしたTake 5のティム・クリストフォーは、「僕らは、『ルー、キモいよ』って感じでしたが、とはいえ、私は13歳だったのでよく分かっていませんでした」と、その状況の不適切さが当時は理解できていなかったと、2007年にVanity Fairに明かした。
ヨーロッパの音楽重役に性的行為を行なうようパールマンから勧められたというLFOのリッチ・クローニンは、「それが向こうでの(ビジネスの)やり方」と説明されたという。加えてティムも、パールマンに「腹筋を見せてみろ。Tシャツを脱いで」と言われたとき、「この業界では、これがメンター(※指導者)の役割なのかな。彼は僕の体型を気にかけてくれているんだろう」と思ったと、パールマンを題材にしたドキュメンタリー番組で明かした。
この“無知”を利用した搾取は、性的行為以外でも見られる。2021年にマネジメント会社による精神的虐待を告発したホワイ・ドント・ウィーは、非人道的な扱いが「『普通』であり、どのアーティストも通る道だと思わされていた」と声明で綴った。インシンクは、パールマンからギャラをまったく払われない異常な状態にありながらも、“これが業界では普通なんだ”と信じ込んでいたと、ドキュメンタリー番組で明かした。
加害を行なう大人たちは子どもや若者の無知を悪用しているわけだが、一度加害が始まると、報復やキャリアへのダメージという“恐怖”が沈黙の文化を生み出す。12歳の時からマネージャーや業界関係者たちから性的暴力を受け続けていたリッキー・ガルシアがその経験を他人に明かしたのは19歳になった2018年だったそうだが、それまで隠していた理由については、何か言ったらキャリアがダメになると思っていたからだと裁判で明かした。
マネージャーや事務所の社長は、ボーイズグループの誕生・発展・成功において重要な役割を果たす。彼らはグループのメンバーをスカウトするだけでなく、制作プロセスを監督し、グループのイメージ戦略やメディア・業界関係者との関係構築を管理し、メンバーたちのキャリアに大きな影響力を持つことになる。加えて、保護者的存在を必要とする未成年者たちは、キャリアだけでなく私生活でもマネージャーらに依存しやすく、搾取や虐待を受けやすい状態にある。そこにつけ込む加害者たちの存在を明るみに出し、被害を防ぐために、業界が、メディアが、社会が、それぞれ責任を果たす必要がある。
※この記事は2023年5月15日に初掲載されたものです。