アメリカの新たな国民の祝日に?「ジューンティーンス」とは
黒人に対する人種差別の撲滅や権利向上を訴えるムーブメント「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター/黒人の命も価値がある)」が広がり続けるなか、アメリカで、これまで盛大には祝われてはいなかった、6月19日の奴隷解放記念日を国民の祝日に正式に制定するべきだとの声が高まっている。
「June 19th=ジューン・ナインティーンス」を省略して「ジューンティーンス(Juneteenth)」と呼ばれるこの日は、1865年6月19日にテキサス州で発令された奴隷解放宣言を記念するもの。
アメリカでは奴隷制度の存続か廃止をかけて、1861年に南北戦争が勃発。1863年元日に当時の大統領エイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言に署名したが、テキサス州で最後まで奴隷として残されていたアフリカ系アメリカ人たちに、戦争の終結と奴隷制度が終了したことが告げられたのは、その約2年半後の1865年6月19日。
「テキサス州の人々に、アメリカ合衆国の行政機関の宣言に従い、すべての奴隷が自由であることを通達する」という北軍ゴードン・グレンジャー将軍による宣言により、黒人たちがようやく自分たちが奴隷の身分ではなくなり、人間としての自由を手に入れることができると知った日が、“ジューンティーンス”として祝われるようになった。
「ジューンティーンス」は別名「フリーダム・デー(Freedom Day)」、「エマンシペーション・デー(Emancipation Day)」、「ジュビリー・デー(Jubilee Day)」、リベレーション・デー(Liberation Day)」とも呼ばれる。
テキサス州では、1980年以降、この日を祝日としており、ルイジアナ州、アーカンソー州、オクラホマ州、アトランタ州、ワシントン州などでは、パレードやお祭りなどが行なわれる。そのほかにも街をあげて祝う都市もあるものの、ジューンティーンスは、連邦祝日、つまり国民の祝日としては認められていない。
「ジューンティーンスを国民の祝日に」セレブたちが訴え
これまで155年間にわたり全米各地で祝われてきたジューンティーンスだが、“黒人のためだけの記念日”とした印象が強く、ほかの歴史的記念日と比べると認知度が低かった。
しかし、Black Lives Matterの追い風を受けた2020年からは、人種差別について考えを巡らせ、黒人たちの権利向上について啓発するきっかけとして、ジューンティーンスを正式に国民の祝日に制定し、国家レベルで祝うべきだとの声が高まっている。
シンガーのテイラー・スウィフトは、6月19日のジューンティーンス当日、ツイッターへの投稿を通じて、この記念日の歴史を解説した米The Rootの記事を紹介。
「ジューンティーンスは国民の祝日として祝福されるべき」、「個人的に、今年から6月19日はフリーダム・デーを称える日として、私のもとで働く従業員のみんなに休日を与えることに決めた。今日この瞬間へと私たちを導いてくれた歴史について、学び続ける」、「最近起こったあらゆる出来事は、私たちの家族に、熟考し、耳を傾け、そして、確固たる“反”人種差別者として高々と声を上げるために必要なプログラムを組み直す機会を与えてくれた。それから、自分たちの特権を無駄にせず、正義のために立ち上がれるようにね」などとコメントし、フォロワーたちに知識を身に着けるよう促した。
Black Lives Matterの主要なリーダーたちに、フォロワー数が1億7千890万人を超える自身のインスタグラムアカウントを数日間にわたって“乗っ取らせ”、黒人コミュニティの生の声を伝えてもらうというユニークな方法でデモを後押ししていたシンガー兼俳優のセレーナ・ゴメスは、6月18日の最終日に投稿した総括コメントのなかで、ジューンティーンスの重要さに触れた。
セレーナは、「この日は、Black Lives Matterの重要性や、平等と正義を確立するために、なぜ私たちみんながこのムーブメントに参加するべきなのかということについて家族や友人と話し合う1日にして欲しい。そして、その会話を毎日続けよう!」とコメント。くわえて、ジューンティーンスの歴史やこの日を国民の祝日に制定しようと訴える動きがあることを解説する米TIMEの記事を自身のプロフィールにリンクした。
俳優のトム・ハンクスやルピタ・ニョンゴ、ダヴ・キャメロン、シンガーのアッシャーやリゾ、ミュージシャンのファレルなども、それぞれSNSへの投稿を通じて“ジューンティーンスを国民の祝日にしよう“と賛同を呼びかけている。
州や大企業が続々「ジューンティーンス」を祝日に認定
すでに、2020年からジューンティーンスを祝日とすると独自の決定を下した州や企業もある。
カリフォルニア州、バージニア州、ペンシルベニア州は6月19日を休日に指定すると発表。ニューヨーク州のアンドリュー・クォモ知事もこの日を公務員の祝日にする行政命令に署名したことを明かし、2021年からは「州の祝日」とする法案を提出する意向を明らかにした。
さらに、先陣を切ってジューンティーンスを祝日としたTwitterに続き、ナイキ、アマゾン、NFL、ターゲットといった、さまざまな分野の大企業もジューンティーンスを“人種差別について考える日”として、全従業員に有給を支給することを発表した。
「ジューンティーンス」はどうやって祝う?
アメリカの“第二の独立記念日”とも称されるジューンティーンスは、7月4日の独立記念日と同様に、ピクニックやバーベキューなど、ごちそうを用意して家族ぐるみで自由を満喫するのが習わし。
自分が持っている一番オシャレな洋服でおめかしして集いに参加するほか、ストロベリーソーダを飲んだり、スイカやレッド・ベルベットケーキ、ストロベリーパイといった、赤い食べ物や飲み物を口にする。赤は奴隷たちが流した血と復活力のシンボルカラー。
近年では、黒人たちが歩んできた歴史を題材にした映画や舞台、本、アートなどに親しむ機会として全米各地で催しが開催されているほか、いくつものテレビ局やストリーミングサービスが黒人の文化や歴史に特化した作品をピックアップした特別企画を実施している。(フロントロウ編集部)