映画『ハリー・ポッター』の原作者J.K.ローリングの“トランス差別的発言”が問題視されているなか、ローリング氏の見解には同意できないとして、彼女の事務所に所属する4人の作家が事務所を離れることを発表した。(フロントロウ編集部)

4人の作家が事務所を離れることを発表

  映画『ハリー・ポッター』(以下『ハリポタ』)シリーズの原作となった同名児童向け小説の著者で、『ハリー・ポッター』の新シリーズである『ファンタスティック・ビースト』の原作・脚本も手がける作家のJ.K.ローリングの“トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)的ととれる発言をめぐって、彼女の所属事務所であるザ・ブレア・パートナーシップに所属する4人の作家が事務所を離れることを発表した。

 退所を発表したのはドリュー・デイヴィス、ウグラ・ステファニア・クリスジョヌドティア・ジョンスドティア、フォックス・フィッシャーの3人と、匿名の作家1人で、退所に際して発表した声明の中で、ザ・ブレア・パートナーシップがトランスジェンダーの人々への支持を表明する声明を発表していないことを退所の理由としてあげている。

J.K.ローリングの「トランスフォビア的」発言とは?

 ローリング氏は、ツイッターを通じて米メディアDevexの『意見:新型コロナウイルス以降の世界を月経がある人々にとってより公平なものにするために』というタイトルの記事をシェア。 

 新型コロナウイルスというパンデミックによって得た教訓をもとに、月経にまつわる健康への意識を高め、さまざまな理由により生理用品を入手するのが困難な人々をサポートするシステムを整えるべきだと論じたこの記事では、トランスジェンダー(※1)の男性(生まれ持った体は女性)やノンバイナリー(※2)の人たちも考慮に入れ、「月経がある=必ずしも女性ではない」ということを強調するため、タイトルでも「月経がある人々」という書き方が採用されたが、この表現にひっかかるものを感じた様子のローリング氏は、「“月経がある人”ね。以前はこの人たちを表す言葉があったと思うんだけど。なんだったっけ、誰か教えてくれない?ウンベン?ウィンパンド? それとも、ウーマッド?」と、あえて「女性(ウィメン)」と記載しなかったことに疑問を投じた。

※1:生まれ持った体と心の性が一致しない人。※2:自分の性認識が男女という性別のどちらにもはっきりと当てはまらないという考え

 少し茶化したようにも聞こえるローリング氏のこの発言は、トランスジェンダーに対して差別的だと批判の的に。

画像: 『ハリー・ポッター』著者の“差別発言”を受けて4人の作家が彼女の事務所を離れる【声明訳】

 ローリング氏は、「もし性別がリアルではないなら、同性同士が引かれることだってない。もし性別がリアルじゃないなら、これまで世界中の女性たちが生きてきた現実が消し去られてしまう。私はトランスジェンダーの人たちのことも知っているし、大好きだけど、性別の概念を取り除いてしまうのは、多くの人たちが自分の人生について有意義に議論をする可能性を奪ってしまう。真実を語るのは悪意ではない」と持論を展開し、トランスジェンダーを嫌悪しているわけではないと説明したが、非難の声は鳴りやまず、一般ユーザーからはもちろん、セレブたちからも異論を唱えるコメントが続出。

 その後、状況を重く見たローリング氏が、問題視されている発言の真意を説明するべく自身の公式ウェブサイトで2万字に及ぶ長文エッセイを公開したのだが、反省の言葉や自分の意見を取り下げるような記述が一切なかったことから、さらに批判が集まっている。

4人の作家が声明を発表

 「この決断は容易になされたものではなく、このような結果になってしまったことを私たちは悲しく、残念に思っています」と4人の著者が発表した声明には綴られている。「同じ事務所に所属しているJ.K.ローリングがトランスジェンダーの問題について公にコメントした際、私たちは事務所に連絡して、トランスジェンダーの権利や平等性についての(それらを支持する)姿勢を再び示してほしいとお願いしました。話し合いの結果、彼らには我々が適切で、意味があると思えるような行動を実行することはできないと私たちは感じました。言論の自由とは、過小評価されている人々に対する機会の平等を妨げる構造的な不平等に挑戦し、そこに変化をもたらして初めて維持されるものです」

 「私たちは、多様な声や経験を擁護しようと並々ならぬ努力をし、業界の均一性に挑戦している出版業界のあらゆる分野にいる、LGBTQIAやアライの皆さんと共にあります」と4人は述べている。

画像: 4人の作家が声明を発表

 声明は次のように続いている。「しかしながら、不平等や抑圧の問題は、人種差別や能力主義、性差別に至るまで、広範囲におよんでいます。事務所や出版社は、過小評価されている人々のためのプラットフォームをゼロから作り、彼らの文化に意義のある変化を起こす必要があるのです。様々な声をリアルに、紛れもなく反映したものにまで表現の幅を拡げなければいけません」

 4人は声明の中で、「トランス女性は女性であり、トランス男性は男性であり、ノンバイナリーというアイデンティティも正当なものです」とも述べている。オンラインに発表された声明の全文はこちら

『ハリポタ』キャストからのコメントも

 トランスジェンダーに対して差別的だとして批判を集めたローリング氏の発言に対しては、映画『ハリー・ポッター』シリーズに出演するキャストたちも彼女の見解に賛同しない姿勢を示している。“ハリポタ・トリオ”として知られる、ハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフ、ロン・ウィーズリー役のルパート・グリント、ハーマイオニー ・グレンジャー役のエマ・ワトソンの3人は意見が一致しており、トランスジェンダーの人々を支持する声明をそれぞれ発表した。

画像: 『ハリポタ』キャストからのコメントも

 他にも、ロンの妹ジニー・ウィーズリーを演じたボニー・ライトや、ハリーたちの後輩であるルーナ・ラブグッドを演じたイヴァナ・リンチ、ハリーの初恋の相手であるチョウ・チャン役を演じた俳優のケイティ・リューングらがローリング氏の意見に反対する立場を表明している。(フロントロウ編集部)

※この記事ではtransphobiaという言葉を当初「反トランスジェンダー」と記載していましたが、より適切な「トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)」に修正しました。

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