トランス差別だと物議を醸しているJ.K.ローリング
大ヒット映画『ハリー・ポッター』シリーズの原作となった児童文学・ファンタジー小説『ハリー・ポッター』や、そのスピンオフシリーズである『ファンタスティック・ビースト』の原作者として知られるイギリス人作家のJ.K.ローリング。
9月15日には、ロバート・ガルブレイスの名義で執筆している犯罪小説『私立探偵コーモラン・ストライク』シリーズの第5弾となる最新作『Troubled Blood(原題/トラブルド・ブラッド)』を刊行したローリング氏だけれど、この新作には犯人として“女性を殺害するために女装をして犯罪を繰り返すシスジェンダー(※生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致している人)の男性連続殺人犯”が登場する。
ローリング氏はこれまでたびたびトランスジェンダーに差別的な発言が問題視されており、今年6月にはツイッターに投稿した「トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)」とされる発言が物議を醸し、『ハリーポッター』や『ファンタスティック・ビースト』の映画出演者たちからも「賛同できない」とコメントが出るほどの大騒動に発展した。
J.K.ローリングの「トランスフォビア」発言とは?
ローリング氏は、ツイッターを通じて米メディアDevexの『意見:新型コロナウイルス以降の世界を月経がある人々にとってより公平なものにするために』というタイトルの記事をシェア。
新型コロナウイルスというパンデミックによって得た教訓をもとに、月経にまつわる健康への意識を高め、さまざまな理由により生理用品を入手するのが困難な人々をサポートするシステムを整えるべきだと論じたこの記事では、トランスジェンダー(※1)の男性(生まれ持った体は女性)やノンバイナリー(※2)の人たちも考慮に入れ、「月経がある=必ずしも女性ではない」ということを強調するため、タイトルでも「月経がある人々」という書き方が採用されたが、この表現にひっかかるものを感じた様子のローリング氏は、「“月経がある人”ね。以前はこの人たちを表す言葉があったと思うんだけど。なんだったっけ、誰か教えてくれない?ウンベン?ウィンパンド? それとも、ウーマッド?」と、あえて「女性(ウィメン)」と記載しなかったことに疑問を投じた。
※1:生まれ持った体と心の性が一致しない人。※2:自分の性認識が男女という性別のどちらにもはっきりと当てはまらないという考え
少し茶化したようにも聞こえるローリング氏のこの発言は、トランスフォビアだと批判の的に。
ローリング氏は、「もし性別がリアルではないなら、同性同士が引かれることだってない。もし性別がリアルじゃないなら、これまで世界中の女性たちが生きてきた現実が消し去られてしまう。私はトランスジェンダーの人たちのことも知っているし、大好きだけど、性別の概念を取り除いてしまうのは、多くの人たちが自分の人生について有意義に議論をする可能性を奪ってしまう。真実を語るのは悪意ではない」と持論を展開し、トランスジェンダーを嫌悪しているわけではないと説明したが、非難の声は鳴りやまず、一般ユーザーからはもちろん、セレブたちからも異論を唱えるコメントが続出した。
その後、状況を重く見たローリング氏が、問題視されている発言の真意を説明するべく自身の公式ウェブサイトで2万字に及ぶ長文エッセイを公開。しかし、反省の言葉や自分の意見を取り下げるような記述が一切なかったことから、さらに批判の声が高まっている。
J.K.ローリングがまたも問題ツイート
ローリング氏のトランス差別発言に対しては、映画化作品に出演してきた俳優たちのみならず、長年にわたってローリング氏の著書を愛読してきた多くのファンからも反感や落胆の声があがったものの、ローリング氏は“性別適合手術を安易に行なって後悔している人がたくさんいる”などと誤解を与え不適切だとされる主張をして、発言を顧みることなく、自身の持論に上積みをし続けてきた。
そんななか、今回ローリング氏の新たなツイートが再び物議を醸している。ローリング氏は先日、Tシャツの写真をツイッターに投稿。「時には、Tシャツが話しかけてくれることがある」という文言と共に、「This WiTCH DOESN’T BURN(この魔女は燃えない)」というメッセージが描かれたTシャツを着た写真をツイートした。
Sometimes a T-shirt just speaks to you...
— J.K. Rowling (@jk_rowling) September 22, 2020
(From https://t.co/hhOu3fO1rg, in case you know a witch who'd like one �) pic.twitter.com/T4E9OCMCMI
ローリング氏はこのTシャツを購入したサイトのリンクも掲載しており、「Wild Womyn Workshop」というウェブサイトで購入したよう。このサイトは、レズビアンのフェミニストであるアンジェラ・C・ワイルドという人物が立ち上げたもので、彼女は「クィア政治やトランスジェンダー主義」などの「男性の利益を優先するあらゆる性差別的な政治やシステムに反対」しているレズビアンの権利団体『Get The L Out(ゲット・ザ・L・アウト)』の創設者として知られる。
ローリング氏がTシャツを購入した「Wild Womyn Workshop」では、バッジも販売されており、一部のバッジには、「トランス女性は男性です(TransWomen are Men)」「あんたの代名詞なんか知るか(F*ck Your Pronouns)」「トランス男性は私のシスター(Transmen are my sisters)」といったトランスジェンダーに理解を示さない文言がデザインされている。
ローリング氏は以前から、トランスジェンダー差別ととらえられかねない考えを持つフェミニストを指す“TERF”なのではと言われてきた。TERF(ターフ)とは、Trans-Exclusionary Radical Feminist=トランスジェンダーの人々を排除しようとする急進的なフェミニストのことで、彼女たちの主張の1つとして、トランスジェンダーで女性になった人を“女性”と指すのは間違っているという主張がある。
このツイートには多くのユーザーからの批判が寄せられているものの、ローリング氏はこれ以上のツイートを投稿していない。権利団体『Get The L Out』の創設者であるワイルド氏は英Insiderに対し、ローリング氏がTシャツを購入した「Wild Womyn Workshop」と権利団体は提携していないとしており、ローリング氏が必ずしも同団体に賛同しているとは限らないものの、「この魔女は燃えない」というTシャツの文言から判断すれば、少なくともローリング氏は引き続き同じ主張を続けるつもりのよう。(フロントロウ編集部)
※この記事ではtransphobiaという言葉を当初「反トランスジェンダー」と記載していましたが、より適切な「トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)」に修正しました。