ウクライナへの軍事侵攻をめぐり世界各国から制裁を受けているロシアのプーチン大統領が、ロシアが現在置かれている状況は『ハリ―・ポッター』シリーズ原作者のJ.K.ローリング氏の炎上騒動と似ているという主旨の発言をした。(フロントロウ編集部)

ロシアは「キャンセル・カルチャー」の標的にされていると主張

 ロシアのウラジミール・プーチン大統領が、現地時間3月25日に国営テレビにて放送された政府当局者や文化人とのビデオ会談のなかで、ロシアが直面している諸外国からの制裁は「キャンセル・カルチャー」の一種であると独自の見解を述べた。

画像: ロシアは「キャンセル・カルチャー」の標的にされていると主張

 チャイコフスキーやショスタコーヴィチ、ラフマニノフといったロシアが生んだ音楽家たちや芸術家の作品をボイコットしようという動きが国外で広がっていることを受け、プーチン大統領は「彼らは何千年もの間続いてきた私たちの文化をキャンセルしようとしています」「ロシア作家や彼らの著書も禁止されようとしています」とコメント。

 「彼らは私たちの国もキャンセルしようとしています。つまりロシアに関わりを持つすべてのものに対する差別が進行しているのです」と続け、キャンセル・カルチャーは1930年にドイツ・ナチス軍が起こなった反ドイツ主義の書物を燃やすという行為と同じだと主張した。

キャンセル・カルチャーとは?

 キャンセル・カルチャーとは、不適切と判断される言動を行なった個人や企業などに対し、SNSなどを通じて責任を追及し、「抹殺(キャンセル)」しようと呼びかける行為。

 もともと、ツイッターなどのSNSを使って著名人や企業の問題行動を指摘する行為は、これまで暗黙の了解として解決されずにきた問題に焦点を当て、当事者に責任を負わせ、社会の風潮に変化をもたらすことができる方法だった。

 しかし最近では、問題提起と改善だったはずの批判が、対象を集団で叩いて社会から“抹殺”することへと発展してしまい、問題提起や解決の域を超えたネガティブな方向へと進展してしまう場合が増えており問題視されている。

J.k.ローリング氏の炎上騒動に言及

 映画『ハリー・ポッター』シリーズの原作小説の著者で、映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズの脚本も手がける作家のローリング氏は、2020年6月にツイッターに投稿したトランスフォビア(※)的と受け取れる発言が炎上。

※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動

画像: J.k.ローリング氏の炎上騒動に言及

 “トランスジェンダーの女性は女性とは認めない”といった主旨のローリング氏の主張には、『ハリー・ポッター』や『ファンタスティック・ビースト』のキャストたちも「同意できない」「トランス女性も女性です」と次々に声明を出す事態に発展し、一部のハリポタファンたちの間で不買運動が起こったが、ローリング氏はそれでもなお、2万字にもおよぶエッセイやSNSを通じて主張を続け、トランスジェンダーの人々に対して誤解を招くような持論を後押しするなどして批判を受けている。

 LGBTQ+コミュニティやアライからの非難が相次ぐ一方で、ローリング氏の支持派の間では、ローリング氏はキャンセル・キャルチャーの被害者だとする声がある。

 プーチン大統領は、キャンセル・カルチャーについて述べた会談の中で、ローリング氏をめぐる騒動に言及。「彼女はただジェンダーにまつわる権利に関する要求を満たさなかったというだけでキャンセルされた」と発言した。

 ウクライナへの侵攻を始めてから1カ月以上が経つなか、当初計画していた通りに事が進んでいないことに、プーチン大統領や側近たちは「神経を尖らせている」と専門家は米ニューヨーク・タイムズに分析している。プーチン大統領の今回の発言は、自国の文化や芸術が“抹殺されようとしている”という危機感をあおることでロシア国民の情に訴え、士気を高めようという意図があるものとみられる。

ローリング氏が反応

 プーチン大統領から名指しにされたことを受け、ローリング氏はツイッターで反応。

 反プーチン政権運動の指導者で、詐欺や法廷侮辱の罪で禁錮9年を言い渡されて収監中のアレクセイ・ナワリヌイ氏に関するBBCの記事を引用したうえで、「抵抗の罪で現在民間人を虐殺している人々が西洋のキャンセル・カルチャーを批判するという行為は、おそらく最善ではありません」とコメントした。

 ローリング氏は以前からウクライナへのサポートを表明しており、自身が設立したルーモス財団を通じて募金活動を行なっている。これは、上限は100万ポンド(約1.5億円)とし、すべての寄付金の同額を自らも寄付するというもので、おもにウクライナ国内の孤児院などの施設から身動きが取れなくなっている子供たちを救う目的で集められている。(フロントロウ編集部)

※記事公開後にローリング氏が反応したため、和訳と説明を追加しました。
※作品名表記に誤りがあったため修正しました。

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