『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が3月24日に公開
「デヴィッドは1970年の時点で、21世紀のために曲を書いていたと思います」。3月24日(金)より全国公開される映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』で監督を務めたブレット・モーゲン監督がフロントロウ編集部とのインタビューでそう語ってくれたように、デヴィッド・ボウイは常に時代精神を捉え、そのさらに先を見据えていたアーティストだ。
1947年に生まれたボウイは2016年に亡くなるまで、そして亡くなった今なお、多くのアーティストに影響を与え続けている。そんな伝説的なデヴィッド・ボウイという人物をテーマにした映像作品は数多く作られてきたが、映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が特別なのは、“デヴィッド・ボウイ財団が公認した唯一の映画”だということ。
ニルヴァーナの故カート・コバーンをテーマにした『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』や、ザ・ローリング・ストーンズを題材にした『クロスファイアー・ハリケーン』などのドキュメンタリー映画を手がけたことでも知られるブレット・モーゲン監督は、『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を制作するにあたり、財団から提供されたボウイに関する膨大なアーカイブのすべてに2年という歳月をかけて目を通した。そうして完成した本作をユニークな作品たらしめているのは、ナレーションや関係者などの発言が一切登場せず、話者はボウイのみという形で構成されているという点。
「日付、名前、情報から解放された、印象派的な映画を作りたかった」とモーゲン監督はオフィシャル・インタビューで語っているが、本作は、ボウイの人生における様々な地点から集めた映像や音楽、彼が参照した影響源を繋ぎ合わせるという手法で作られている。よくあるクロノロジカルな伝記的ドキュメンタリーとはまったく異なる、フロントロウ編集部に監督本人が語ってくれた言葉を借りれば新たな「シネマ体験」ができる作品として成立しており、デヴィッド・ボウイというアーティストを、彼を構成する様々な要素を通して改めて堪能することができる。
公開されている予告編には、自身が履いている靴に対する「その靴は男物? 女物? バイセクシャルのもの?」というテレビ番組の司会者の嘲笑的な言葉に、ボウイが「ただの靴さ」と一蹴する場面が収められているが、そうした社会的な境界に捉われない姿勢はボウイのキャラクターを象徴する側面の1つ。今になってこの場面を観ると、司会者の言葉のほうに違和感を覚える人がほとんどだろうが、ボウイはそうした価値観を約半世紀前に当たり前のように持ち合わせていた。
ボウイが当時持ち合わせていた価値観は、2020年代の今こそ共鳴するものかもしれない。本作を観て改めてそう感じたフロントロウ編集部は2月に来日したモーゲン監督と対面した機会に、映画のことについて訊きつつ、ボウイが持ち合わせていた今日に通ずる先見性についても話を向けてみた。