人種などのレプリゼンテーションを適切に反映しようという動きがゲーム業界にも広がっている。日本を舞台にしたゲーム『WILD HEARTS』の英語版の声優陣に集結したのは、日本にゆかりのあるキャストたち。メインキャラクターの1人である、なつめ役に抜擢されたアーティストのミラクル・ベル・マジックに、声優として初の演技に参加した経緯をインタビューし、あえて日本語っぽいアクセントで収録するなど、言語の面でもレプリゼンテーションが反映された同作のレコーディングについて話を訊いた。(フロントロウ編集部)

日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

ところで、なつめ役はベルさんにとって声優への初挑戦となりました。役に決まったときの心境について教えていただけますか?

最初はびっくりしかなかったです。私は声優の経験もありませんでしたし、お芝居に関しても、自分の動画や自分の舞台では、自己流で自分が作ったキャラクターを演じていたけど、プロの現場で、プロの方々に混ざって参加するっていうのは経験がなかったので。それから、自分の声のパフォーマンスもちょっと不安だった時期だったので、最初は喜びよりもちょっと不安が大きかったかもしれないですね。だから収録までの間は、1人でホテルに泊まりに行って、そこで台本と見つめ合って夜通し読み続けるなどしました。もうこの世界にいるようでいないような、バトルフィールドフィールドに出て、戦に向けて準備しているみたいな気分でしたね。心境としては、「戦に出るぞ!」って感じでした。

画像: 収録は日本のスタジオで実施。世界的な作品らしく、収録中はZoomで世界各国の制作スタッフが同席した上で行なわれたという。

収録は日本のスタジオで実施。世界的な作品らしく、収録中はZoomで世界各国の制作スタッフが同席した上で行なわれたという。

ベルさんもおっしゃったように、今回は声優こそ初挑戦でしたが、“演技”というのは活動を通じてずっと中心にあったことだと思います。それこそ、独学での英語学習方法もある意味では演技と関連した部分があったと思いますが、これまでどのようにして英語を学ばれてきたか、改めて教えていただけますか。

自分の“好き”という気持ちを追求した学び方という感じでしょうか。自分の好きなものって、無限に追いかけられますよね。それに触れている時間って、ただただ幸せでしかない時間だと思います。私はすごく英語が大好きで、本当にその熱がものすごかったので、勉強したっていうよりは、その“好き”をただ追い続けてきたっていう感じです。映画とかドラマが大好きなので、高校生の頃から海外ドラマとかをずっと観ていました。日本にいても海外にいるんじゃないっていうぐらいのレベルで英語をインプットしまくるっていう、耳で聴き続けるっていう方法が1つですね。

画像1: 日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

あとは、私、妄想がすごく好きで。今でもそうなんですけど、1日の中で現実世界に自分の脳がいる時間よりも、多分妄想の中で過ごしている時間のほうが長いんですよね。その妄想の中で、英会話をするんです。妄想の中に、相手の人物を登場させて、1人で英語を話すんです。相手があんなこと言いました、だから私は実際に口に出して返事をして、そしたら相手からはこう返ってきました、みたいな。今でもそうやって取り組んでいるんですけど、すごく良い練習法だなと思っています。頭の中だけで完結するのではなくて、ちゃんと英語を口に出すという方法です。妄想の中なんだけど、独り言として話すっていう。私が出した『英語が話せる人はやっている 魔法のイングリッシュルーティン』っていう本でも、“独り言”っていうのがキーワードになっています。独り言で、とにかく喋りまくる。でも、ただただ喋るのは楽しくないから、そうやって妄想の世界とか、自分が楽しい気分に慣れることと必ず何かリンクさせて、自然に練習するっていう感じで英語学習をやってきました。

独り言での学習のなかでも、海外ドラマなどでの英語を通じての学習だと特にそうだと思うのですが、発音する際は無意識にでも、ネイティブな英語の発音を心がけるものだと思います。今回、『WILD HEARTS』の収録を通じて、あえて“ジャパニーズ・イングリッシュ”で臨まれたことで、ご自身の英語観というものに変化はありましたか?

とても変わったと思います。最初にディレクターから言われたのが、「アクセントは個性だよ」ということでした。私はどうしても自分の感覚として、“完璧=アメリカン・アクセント”っていうふうに思っていたところがありました。自分が喋っているのを聴き返したときとかに、少しでも日本人っぽい感じの発音が入っていたりすると、「うーん」みたいな感じで思っていたし、英語を話す上で、いかに日本人らしさをなくせるかを、すごく考えながらやってきたところがあって。今回も、そういうふうに言われたところで、やっぱり最初は、「そうは言っても、それを聞いた人から“ベルの英語はヘタ”って思われたくないな」みたいに、ちょっと思っちゃったんですよね。

画像2: 日本語っぽいアクセントを残したことが英語観にも影響を与えた

でも、ディレクターさんがおっしゃっていたのが、「逆に僕たち役者からの英語からジャパニーズ・アクセント取ったとして、そしたらもう僕たちじゃなくて良くなってしまう」ということで。「このアクセントがあって、このルーツがあるからこそ、キャラクターがユニークになる、つまり自分たちの英語がユニークになる。だから、それは消そうと思うものじゃなくて、誇りを持っていいもの」っていうふうに言ってくださって。

そこから収録を進めていくにつれて、本当にそうだなっていうふうに思うようになっていきました。以前までは、発音に日本人っぽさがあったら恥ずかしいとか思っていたところが、今では逆に、「これも自分の個性で、強みなんだから、もしいずれ私がハリウッド映画に出たとして、どこかの英語でのインタビューに呼ばれたら、堂々とジャパニーズアクセントで喋ろう」っていうふうに思うようになったんです。「だって、そういうのが可愛いんじゃん!」って。ユニークになるし、自分だけの英語になるし。なので、英語観というのはすごく変わりましたね。

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それから、この話と関連して個人的にすごく好きだったのが、英語で言う「Oh」とか、「Ah」みたいな感嘆詞が、今回は日本語なんです! 例えば、「あ!」みたいな。「あ! You’re here!」みたいな、台本からそういうセリフになっていて。それがすごく可愛いというか、良いなと思って! 私は普段から「あ!」も言うし、「へえ〜」とか、「ん〜」とか「あ〜」とか、よく使うんですけど、英語を喋っているときに「へえ〜」とか出てくるのは変だと思っていたから、“じゃあ、これをどうやって英語に変換したらいいんだろう?”って考えていたんです。でも、今回は台本がそういう感嘆詞になっていたことで、「これで良いんじゃない?」って思えてきて。今では、英語で喋るときにも日本語の感嘆詞を混ぜて話しています。そういうところの考え方も変わりました。すごく(英語に対する考え方が)自由になったし、今までは、捨てなくても良い部分を捨てていたなって思います。日本語のアクセントとか、日本語の感嘆詞も素敵だよねっていう風に世界に思ってもらえたらいいなって思うし、『WILD HEARTS』がそういうことを担ってくれているような感じがしますね。

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