「カチッ」の直後、少年たちは穴を掘り始めた。『バグダッド・メッシ』


第97回アカデミー賞の国際長編映画賞にイラク代表として出品された『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』から、公開後はじめてとなる本編映像が解禁された。松葉杖をついた少年が、仲間に見守られながら地雷原を歩く数分間だ。(フロントロウ編集部)
石を投げて、爆発しない道を探す
解禁されたのは、劇中でも屈指の緊張感を持つ地雷原のシーンだ。荒れた土地を前に、4人の少年が石を投げ込んでいく。爆発が起きるかどうかで、どこを踏めるかを確かめているのである。
「石をたどれば、きっと大丈夫だ」。仲間のその言葉に背中を押されて、片足を失った主人公ハムディが歩き出す。松葉杖を地面に突き立て、体重を預け、また一歩。目的の場所にたどり着き、兵士の遺体から武器を回収するところまでは、うまくいっていた。
引き返し始めた瞬間、「カチッ」と音が鳴る。ハムディが地雷を踏んだのだ。
助けに走った仲間が、最初にしたこと
ここからの数十秒に、この映画の性格がよく表れている。少年たちは逃げなかった。すぐさまハムディのもとへ駆け寄り、自分たちが着ていた服を脱いで彼に着せる。爆風から身体を守るためだ。そして、身を隠すための穴を、その場で掘り始める。
誰かに教わった手順を、慌てずになぞっているように見える。危険と隣り合わせの日常のなかで身につけてしまった生き抜く術と、ふだんは衝突ばかりしている子どもたちが土壇場で見せる純粋さ。その両方が、同じ画面のなかに収まっている。

子どもが武器を探しに行くまでの、長い理由
そもそも、なぜ子どもが武器を探しに行くことになるのか。映画はその道筋を丁寧に積み上げていく。
リオネル・メッシに憧れるサッカー少年だったハムディは、爆撃に巻き込まれて左脚を失い、母の実家がある田舎町へ疎開する。地元のチームには、片足を理由に入団を断られた。それでもハムディは、テレビが貴重品であるイラクでメッシの試合を見る権利を交渉材料にして、なんとか仲間入りを果たす。
だが、肝心のテレビが壊れてしまう。修理に出すには危険なバグダッドまで出向く必要があり、そのための金もいる。そこで彼が見つけてしまうのが、村のボスから父に持ちかけられ、「危険すぎる」と断られていた地雷原の武器捜索地図だった。大人が降りた仕事を、子どもが引き受けてしまう。

「地獄の『スタンド・バイ・ミー』」と呼ばれて
公開後、本作をめぐって繰り返し引き合いに出されているのが、少年たちの冒険を描いた名作『スタンド・バイ・ミー』だ。「少年たちによる『スタンド・バイ・ミー』を思わせる展開が白眉」といった評が並び、ライターのISO氏は「『スタンド・バイ・ミー』の冒険のような無垢さで、少年たちが地雷原をゆく恐ろしさ」とコメントを寄せている。線路を歩く代わりに、彼らは地雷原を歩く。無垢さの置かれた場所が違うだけで、構図はよく似ているというわけだ。
日本では8月9日にアップリンク吉祥寺で公開記念トークショーが開かれ、事故で下半身不随となった猪狩ともかが登壇して、ハムディに自分を重ねた経験を語っている。作品そのものへの反応も、公開から時間が経つほどに厚くなってきた。
地雷を踏んだハムディがどうなるのかは、映像では明かされない。配給元によると、本編映像と新場面写真5点は8月14日午前11時に一斉解禁された。『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』は全国公開中。
















