1. ザ・リンダ・リンダズによる「リンダリンダ」
途中、“今は学校の夏休み中”というMCがあるまで、4人がまだ中高生だということを忘れてしまっていたほどの見事なパフォーマンスを披露してくれたザ・リンダ・リンダズが、ロックンロールとは楽しいものだということを改めて思い出させてくれた。「Rock n roll & fun」「Let’s rock」「Hello FRIENDS! 」というチャーミングなメッセージが終始出されていたスクリーンをバックに、1曲毎にメインボーカルが入れ替わるというセットリストで日本での初パフォーマンスを行なった4人から伝わってきたのは、“誰しもが主人公”だというメッセージだった。
この日も披露された「Racist, Sexist Boy(人種差別主義で女性差別主義な男の子、の意味)」が象徴しているように、アジア系とラテン系のミックスであるメンバーからなる彼女たちは有色人種の少女として、10代の自分たちが経験してきたリアルを歌っている。最後にはバンド名の由来にもなったTHE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」をカバーして自分たちのヒーローにトリビュートを捧げた彼女たちは、等身大でステージを楽しみながら、自分たちが伝えたいメッセージを伝えていた。
2. “スレイ”でしかなかったリナ・サワヤマの日本初ステージ
リナ・サワヤマがついに日本のステージに立った。帰国自体も3年ぶりだったというリナは、自身のDNAをテーマにした楽曲「Dynasty」と、日本人として海外でステレオタイプ的に見られた経験への怒りを綴った「STFU!」から日本での初パフォーマンスをスタート。「実は日本人です」と日本語でジョークを飛ばすなど、日本語が中心だったMCでは、自身は「バイセクシャル」だと宣言した上で、日本における同性婚の法制化を求める力強いスピーチも。
「LGBTの人は人間です。LGBTの人は日本人です。愛は愛。家族は家族です。一緒に闘ってください。よろしくお願いします」と呼びかけ、同性同士の結婚を法律で認めてもらえるよう一緒になって闘ってほしいと訴えた。この日のMCでは発せられなかったものの、リナは海外でのライブで、本人いわく「“支配してる”とか“あなた最高”っていう意味」だという“slay(スレイ)”というスラングをよく使うことで知られているが、「This Hell」や「LUCID」など、彼女のアイデンティティが詰め込まれた楽曲を力強くパフォーマンスし、同性婚に対する立場をハッキリと表明してみせたリナは、スレイでしかなかった。
3. 「頑張れ頑張れ!」と何度もエールをくれたマネスキンのダミアーノ
イタリアからヨーロッパを制した4人組バンドであるマネスキンのすごさは、全員が強烈なカリスマ性を持っているところにある。アリーナから2階席までほぼ満員になっていたように見えたマリンステージに、上半身裸のボーカルのダミアーノ・ダヴィドが登場したところから、スターとしか言いようのないその佇まいに圧倒されてしまった。1曲目に披露されたのは「ZITTI E BUONI」。世界の主要言語ではないイタリア語による楽曲だが、4人全員が強烈な存在感を放ちながら披露されるパフォーマンスで、月並みな表現だが言語の壁を容易に超えて、集まったオーディエンスの心を鷲掴みにしていく。
途中、ドラムの調子が悪くなってしまうハプニングもあったが、生粋のエンターテイナーであるマネスキンにとってはトラブルなんて何のその。すぐに残りの3人で即興のジャムを披露して、パフォーマンスとして成立させてしまうのだから脱帽してしまう。先立って行なわれた単独公演では『進撃の巨人』の楽曲を披露したというほどのアニメ好きであるダミアーノが、日本語で何度も「頑張れ頑張れ!」と叫ぶ場面もあったが、日本のファンへのサービスというよりも、自分が楽しくてやっているというのが前提にあるように聴こえた。マネスキンのステージで特に感じたのはそういう部分で、やりたいように、個性を全面に出してやっている4人だからこその、自由のセレブレーションのようなパフォーマンスだった。
4. The 1975のマシューが叫んだ「We are back!」
10月14日にリリースするニューアルバム『外国語での言葉遊び(原題:Being Funny In A Foreign Language)』から、「Happiness」と「I'm in Love With You」の2曲をマリンステージで“世界初披露”したThe 1975。2020年に新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われて以降、同年3月に行なった公演を最後にライブ活動を中断していた彼らが、サマーソニックでおよそ2年半ぶりにステージに帰ってきた。
The 1975は2020年にスーパーソニックでヘッドライナーを務める予定だったものの、中止に。今年のサマーソニックに出演するために予定を空けて待っていてくれていたというが、久しぶりのライブ復帰の場に日本を選んでくれたことに、バンドの日本への深い愛や、サマーソニックとの関係の深さを感じる。モノクロのシネマティックな演出のなか、フロントマンであるマシュー・ヒーリーの言葉を借りれば「グレイテスト・ヒッツ」のセットリストが披露されたこの日のステージで、マシューがシャウトした数少ない場面の1つが、日本で洋楽ライブがようやくまた観られるようになった喜びに思いを馳せずにはいられない、「We are back!(俺たちは帰ってきたぞ!)」という言葉だった。
5. セイレム・イリースのステージに超豪華ゲストが飛び入り
今年のサマーソニック東京会場で最も豪華な共演の1組が実現したのが、日本語で「私はディズニーに怒っている」を意味するその名も「Mad at Disney」が2020年にTikTokでバイラルになってブレイクした、セイレム・イリースのステージだった。日常に溢れているあらゆる身近な題材をポップな楽曲に落とし込める才能の持ち主であるセイレムは、初来日となったサマーソニックのステージで、バンドをバックに、オリジナルよりもロックなアレンジで「ben & jerry」や「coke & mentos」、「romeo & juliet」といった楽曲をパフォーマンスしていく。
途中、フロントロウ編集部とのインタビューでもアイドルとして挙げていたザ・キラーズによる「Mr. Brightside」の見事なカバーも披露されたこの日のステージは、終盤の「Mad at Disney」で観客のボルテージをさらに上げたが、最後に大きなサプライズが待っていた。それは、この日のサマーソニックに出演していたTOMORROW X TOGETHER(TXT)のサプライズ登場! 「友達を呼んでもいい?」というセイレムの問いかけの後でTXTのヨンジュンとテヒョンがステージにあがり、コラボ曲の「PS5」を披露。フェスティバルに相応しい贅沢な共演で締め括られた。
6. 想定の150倍元気だったヤングブラッド
Zoomでの本人とのインタビューやオンラインライブを鑑賞した経験から、ヤングブラッドの底無しの明るさは分かっていたつもりだった。けれど、昼下がりのマリンステージに「トウキョーーーーーーーー!」と絶叫しながら全速力で登場した、初めてリアルで観るヤングブラッドのテンションの高さは、想定の遥かに上をいっていた。
ヤングブラッドは自分のコミュニティを大切にし、ファン1人1人の自分らしさを全面的に肯定してくれるアーティストだが、常に満面の笑顔で、ステージを文字通り縦横無尽に駆け回りながらパフォーマンスを行なうヤングブラッドを観ていると、こちらも自然と笑顔になれる。途中、ファンが持っていたメッセージ入りのフラッグを受け取ってステージ上で掲げたり、「日本めっちゃ好き〜!」と日本語で叫んだりと、同じ瞬間を共有していたコミュニティを全身全霊で祝福していたヤングブラッド。何もかもをお構いなしに瞬間瞬間を全力で楽しもうとする彼を観ることで、自ずと自己肯定感が高まるようなライブ体験だった。
7. メーガン・ジー・スタリオン先生による“ホットガール講座”
「real hot girl s* *t(リアルなホットガール)」という言葉をこの日のステージで何回聞いたことだろう。トゥワークしていない時間の方が短いように思えたほど、パフォーマンス中にお尻をふり続け、自身のホットガール像を体現していたメーガン・ジー・スタリオン。自己紹介の時に「a.k.a. ホットガール・コーチ」と自称していたメーガンは、日本のアニメへの深すぎる愛から『美少女戦士セーラームーン』をイメージした衣装で登場したこの日、自身のスローガンである「real hot girl s* *t」を何度も口にしていた。
1週間前にサプライズでリリースされた新作『TRAUMAZINE(トラウマジン)』の楽曲も披露されたステージでは、“濡れたアソコ”という大胆な曲名が付けられたカーディ・Bとのフェミニズム・アンセム「WAP」はもちろんやったし、「自分の身体を愛してる?」というMCが添えられたボディ・ポジティブのアンセム「Body」も、ビヨンセがリミックスに参加した「Savage」もやった。さらに、パフォーマンス中には、「東京のホッティー(※)たち! あなたを美しいと言ってくれる人が誰もいなかったとしても、あなたは美しいから! あなたは頑張ってる! ルックスもいい! あなたは強い! 私はそんなあなたに感謝してるよ」というメッセージも。自信に満ちたホットガールとは何たるかを大胆不敵なパフォーマンスで示していた“ホットガール・コーチ”ことメーガンのステージでは、エンパワーメントが沸点に達していた。
※hotties = メーガンのファンの愛称。
8. 涙を流す寸前だったポスト・マローン
初期の大ヒット曲「rockstar」から「Sunflower」、「Circles」まで、来日できなかった空白期間を埋めるかの如く、自身のベストアルバムと言えるようなセットリストを披露したポスト・マローンは、1曲1曲が終わるごとに「ありがとう」とオーディエンスに感謝を伝えていた。ポストもThe 1975と同じく、2020年に出演予定だったスーパーソニックが中止になり、今年のサマーソニックまでずっと待ち続けてくれていたアーティスト。
この日はショートパンツで登場したポストの左脚には、『犬夜叉』の日暮かごめのタトゥーがずっと見えていたが、お忍びで北海道に足を運んだエピソードに象徴されるように、彼は大の日本好きとして知られている。曲間で何度も何度も日本に来られたことの喜びを語っていたポスト。ステージにたった1人で堂々と立ち、力強い歌声で空間を掌握していたそのセットは、人生を祝福する「Congratulations」で締め括られた。フィナーレで打ち上げられた花火をバックに、日本のファンの前でまたパフォーマンスできたことの喜びを噛み締めるかのように、堪えきれず泣きそうになっていたポストの表情がすべてを物語っていたと思う。
(フロントロウ編集部)