アメリカとイギリスを発信源に世界で起きているトランス論争。中心人物のひとりである、『ハリー・ポッター』の作者J・K・ローリング氏は、「トランスフォビック」と批判する人もいれば、「女性の権利を守っている」と支持する人もいる。双方の見方がここまで異なる理由とは? 実際にどのような主張がされているのか? トランスコミュニティに何が起こっているのか? 専門家の見解などと共に騒動を解説する。

メディアの報道の仕方でも論争、The New York Timesが炎上

 トランスジェンダーを巡る論争では、保守派・リベラル派に限らず、メディアの報道の仕方でも批判が相次いでいる。メディアには客観的に物事を報じる責任があるため、ジェンダー・クリティカル派の意見を報じたから「トランスフォビアだ」となっているわけではない。問題は、「ごく一部」の見解や経験が「大多数」に見えるような報道をしてしまっているところにある。

 その例のひとつとして挙げられているのが、リベラル系の新聞であるThe New York Times。前述のとおり、主要な医療機関はトランスの子どもに対するジェンダー適合ケアのポジティブな効果を認めており、年齢に合わせたガイドラインを様々なエビデンスをもとに設けている。しかし、ザ・ニューヨーク・タイムズ紙は、2022年5月頃からの8ヵ月間で、トランスの子どもに対する医療の妥当性についての議論を一面で1万5,000字以上報道。これに対して2023年1月、1,200人以上のザ・ニューヨーク・タイムズ紙寄稿者と3万人以上のメディア関係者と読者が「タイムズ紙では多くの記者がトランスジェンダーの問題を公平に扱っています」としたうえで、新聞側の「編集上の偏りについて深刻な懸念」があるとしたオープンレターに署名。タイムズ紙はライターが他のライターの記事を公に批判することを禁止しているため、これは非常に珍しいこと。

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 タイムズ紙での騒動を受けて、左派系政治コメンテーターのHasan Parker(通称Hasanabi)は、この件を反ワクチンの動きと比較して、こう批判。「(タイムズ紙は)ワクチンについては(主要医療機関の見解から外れた思想は)ひと言も報じなかった。ザ・ニューヨーク・タイムズ紙はワクチンについては、客観的に、フェアに、誠実に報じましたから。それに対して、『あのカイロプラクターがワクチンを接種するとゲイや自閉症になるって言っていることは報じないんですか!?』なんて文句言いませんでしたよね? ホルモン療法や思春期ブロッカーでは何が違うんですか?」と批判した。

 さらに社会風刺メディアThe Onionは、「優れたジャーナリズムとは、たとえそれが存在しない場合でも、そのようなストーリーを見つけることである。厳しい質問をし、気に入らない答えは無視し、あらかじめ決められた編集の結論のために誤解を招くような証拠を提供することです」と皮肉を交えて、ジェンダー適合ケアに関するごく一部のネガティブな情報を拡散させるような報道を揶揄した。

 ちなみにタイムズ紙は本件に対して、社内で社員に向けて報道の妥当性を主張したほか、オープンレターに参加した記者たちを個別で呼び出したとSemaforが報じており、それを受けてジャーナリストの組合の代表がタイムズ紙を批判し、組合からの批判をタイムズ紙のホワイトハウス特派員やピューリッツァー賞受賞記者が批判しと、内部で揉め事となっているとVanity Fairが報じている。

 この他にも、トランス論争について多く報じている英The Timesや英The Sunday Times紙が誤解を与えると情報やデータを報じているとファクトチェック機関Logicallyに指摘されたほか、調査質問が偏っていて誘導的であると複数の機関から指摘を受けている統計会社Rasmussen Reportsの調査結果(※)がメディアでデータとして使われるといった問題も指摘されている。

※統計会社Rasmussen Reportsは質問が誘導的だという指摘が過去にも複数回出ている機関。トランスジェンダーに関する意識調査では、例えば、「最近、生物学的に男性であるトランスジェンダーのアスリートが、女子スポーツにおけるあらゆるレベルで勝利を収めています」としたうえで、トランス女性の女子スポーツへの参加についての質問をしている。米LGBTQ+スポーツメディアOut Sportsは、『あらゆるレベルで勝利を収めています』という前置き情報は「まったく真実ではありません」と批判している。

画像: スコットランド国民党(SNP)のマイリ・ブラック議員は、ツイッター上のトランス論争について「誤認が非常に多く、トランスの問題に対する無知を強く感じます」とJOEに語った。

スコットランド国民党(SNP)のマイリ・ブラック議員は、ツイッター上のトランス論争について「誤認が非常に多く、トランスの問題に対する無知を強く感じます」とJOEに語った。

 2015年に過去350年間で最年少となる20歳でイギリス議会の国会議員となって話題になったマイリ・ブラック議員は、英国の右派メディアのトランス論争に関する報道について、「事実ではない情報が多くあり、後日、うしろの方のページで謝罪するケースが多いです」と皮肉交じりに批判したうえで、右派メディアをこう分析した。「(英保守派の)トーリー党のロジックと一緒です。保守派が成功しやすい理由は、彼らが自分たちの思想を一文で示すと反論の余地がないように感じるからです。例えば、『働いていない人には金銭を支払わなくて良い』。これは合理的に聞こえますよね。では、その一文を具体化して私たちが住む社会に当てはめてみましょう。そうなると、なんてひどい人だとなります。なぜなら人はそれぞれ固有の状況にあり、(それを認めることで)私たちは福祉国家として成り立っているのです。トーリー党のポリシーはいつもそうです。一文を読むとまともに聞こえますが、具体化してみると社会に危害を加えることが多い。右派メディアもこれと同じです。彼らは、簡単に分かり『それはひどいに決まっている』と思える一文を記事の題名に使います。でも細かくひも解いてみると、実際にはそのような問題がないことが分かってくるのです」。

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