③ 反対派から深刻な人権侵害を受けている
「何百人ものトランス活動家が、私を殴り、レイプし、暗殺し、爆破すると脅迫しています」(2021年のツイートより)
J・K・ローリング氏に対して行き過ぎた誹謗中傷があることは紛れもない事実。彼女の発言が差別を助長して、現実世界でトランスジェンダーの人々に対する殺人や暴行が増えているとする意見はあるが、どんな理由があっても、彼女に殺害予告を送ったり、自宅前まで行ったりする行為は正当化されない。
そしてそれは両サイドに言えること。2021年には、ローリング氏にツイートをスクリーンショットで引用されたトランス・インクルーシブ派がアカウントを削除するほどの誹謗中傷を受けたこともあれば、2022年8月~11月の間だけで24の異なる病院や医療提供者に対する「オンラインでのハラスメント」がHRCの調査で確認された。
行き過ぎた誹謗中傷に及んでいるのはどちら側も一部ではあると推測するが、これらの行為にプラスはひとつもないことを自覚しなくてはいけない。
④ 女性専用エリアで女性や少女の権利が侵害されてしまう
「自分が女性であると信じたり感じたりしている男性にトイレや更衣室を開放すると、中に入りたがっている全男性にその場を開放していることになります」(2020年6月のエッセイより)
「安全対策やサービスの提供、スポーツのカテゴリーなど、現在、女性や少女が法的権利や保護を受けている領域において、性別や性自認が決定の根拠となるべきか」(2021年11月のツイートより)
ジェンダー・クリティカル派の主張は、トランス女性が女性専用エリアを使うことを許可すると、制度を悪用した男性による加害が増加してしまうということ。さらにスポーツに関しては、身体的な優位性を活かしてトランス女性がシス女性から勝利や奨学金の機会を奪ってしまうとされている。
女性専用の空間については、その空間の特徴や状況、さらに地域ごとの特性を考慮してそれぞれの場面に適した議論をしていく必要がある。そのためにも、事実や状況を正しく認識し、誤解をはらむ情報の拡散を避け、不適切なブランケット・バン(全面禁止)に繋げないことが求められている。
例えば、女子トイレ。女性が女子トイレで男性から性被害を受ける事件は起きている。そして数は少ないが、女性が女性から性被害を受けた事件も過去にはある。トランス論争での焦点は、トランスジェンダーの人々が性自認と同じトイレを使用できる場合にその被害が増えるかどうかだが、例えば、約20の州と約250の自治体でトランスの人がジェンダー自認と同じ公共施設を使えているアメリカでは、すでに導入されている州のデータより、トランス・インクルーシブな政策とトイレの安全性に関連性はないという調査結果が出ている。後者の調査を行なったUCLA法科大学院ウィリアムズ研究所のAmira Hasenbushは、「ジェンダー・アイデンティティを保護する公共施設法の反対派は、しばしば、この法律が女性や子どもを公共トイレで攻撃されやすい状態にすると主張します。しかし、この研究は、これらの事件は稀であるうえ法律とは無関係であるという証拠となります」とした。この調査結果からは、トイレ内での性被害を減らす解決策はトランスの人々を排除することではないことが分かるが、アメリカの保守的な州では、そういったデータを無視し、恐怖を煽るような情報だけを切り取って、学校など公共の施設でトランスジェンダーの人々が性自認に沿ったトイレを使うことを制限する法律が次々と提案・制定されている。ちなみにアメリカでは、性自認に沿ったトイレを使えない学校に通うトランスの10代は、そうでない者よりも性暴力を受ける危険性が高い(4割弱が過去12か月で性被害を経験したと回答)という調査結果がある。
トランスジェンダーの人々のトイレからの排除については、バラク・オバマ元米大統領は「(性自認に沿ったトイレの使用禁止は)間違っていて、覆すべきだ」と、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス米議員は「みんなが大人になって、きちんと手を洗って、他人を攻撃するのではなく自分のことだけに集中していれば、トイレの話などする必要はない」と批判している。
ほかにも、例えば“生まれた時に割り当てられた性別が男性であるトランスジェンダーの女子生徒がシス女性から勝利や奨学金の機会を奪ってしまう”という保守派議員たちの主張が、(※この主張をする議員たちの問題点は後述する)、身体的な性差のない幼稚園年長のトランス生徒のスポーツ参加も制限するブランケット・バン(全面禁止)に繋がったり、トランスだと“疑われた”女子生徒は性器のチェックを受ける必要があるという項目が提案されたりと、米国小児科学会やアメリカ心理学会といった医療機関やACLUのような人権団体から強く批判が出る動きが多発している。
⑤ トランスの人々に嫌悪感情は持っていない
「トランスの人たちは、保護が必要であり、保護に値します。女性同様、性的パートナーに殺される可能性が最も高いのです。性産業で働くトランス女性、特に有色人種のトランス女性は、特に危険にさらされています。私が知っている他の家庭内虐待や性的暴行の生存者と同様に、私は男性から虐待を受けたトランス女性に共感と連帯感しか感じません」(2020年6月のエッセイより)
「私は、すべてのトランスジェンダーが、自分にとって本物で快適だと感じる生き方をする権利を尊重します。もしあなたがトランスであることを理由に差別されたとしたら、私は一緒にデモで行進します」(2020年6月のツイートより)
ローリング氏はトランスの人々へのリスペクトがあるとしているが、LGBTQ+コミュニティからは懐疑的な声が強い。
ヨーロッパ最大のLGBTQ+団体Stonewallやアメリカ最大のLGBTQ+権利団体HRCなどは、ローリング氏がトランスジェンダーの人々の偏見や差別を助長するような誤解を与える情報を拡散し続けていることを強く批判している。ローリング氏が親密な関係を持つLGBTQ+団体にはLGBアライアンスがあるが、同団体のイギリス支部はロンドン・プライドの主催者Pride Londonに「ヘイトグループ」とされており、さらにアイルランド支部も「ヘイトグループ」として認定されている。
また、ローリング氏は2020年に「トランスであることを理由に差別されたとしたら、私は一緒にデモで行進します」と明言しているため、2022年にイギリス政府がトランスジェンダーに対するコンバージョン・セラピー(※LGBTQ+であることを“治す”ことを目的とした治療。主要な医療機関はその治療を否定している)を違法とすることを先送りした件など、イギリス国内外でトランスの人への差別を反対するデモがあるたびに有言実行を求める声がSNSで挙がるが、現時点で、ローリング氏から表立った行動はない。