「性別」に関する根本的な考え方の違い
近年のトランスジェンダーの人々を取り巻く騒動を考えるには、まずは、ジェンダー・クリティカル派とトランス・インクルーシブ派の根本的な考えの違いを理解する必要がある。
生物学的な性別(sex)は変えられない。これは双方に共通している認識。意見が大きく分かれるのはこの先だ。
トランス・インクルーシブ派の考え
トランス・インクルーシブ派は、生物学的な性別(sex)と社会的な性別(ジェンダー)は異なるものであり、生物学的な性別は変えられないがジェンダーはそれぞれが自認するものであると考えている。つまり、生物学的には男性でも性自認が女性の場合は女性、生物学的には女性でも性自認が男性の場合は男性ということになる。この考えは「トランス・インクルーシブ」のほか、「ジェンダー・アファーミング」や「ジェンダー・ポジティブ」といった表現で呼ばれている。
ジェンダー・クリティカル派の考え
ジェンダー・クリティカル派は、社会的な性別(ジェンダー)の存在を否定している。生物学的な性別は変えられず、本人の意思で性別は決まらないと考えている。つまりトランスジェンダーであっても、生物学的に女性ならば女性、生物学的に男性ならば男性ということになる。この考えはジェンダー・クリティカルと呼ばれており、J・K・ローリング氏はここに属するとされている。
ジェンダーに対する専門家たちの見解
生物学的な性別とは異なるジェンダーの存在について、医学界の見解はどうなのだろうか? 国連やWHOのほか、全世界の医師を代表した国際連合世界医師会、医師や医学生で構成された米団体アメリカ医師会、世界最大の精神科団体アメリカ精神医学会、アメリカで大半の小児科医が会員となっているアメリカ小児科学会など、主要な医療機関はジェンダーの存在を認めており、当事者のジェンダー自認を尊重すべきであるとしている。
ジェンダー・クリティカル派はなぜ「トランスフォビア」と呼ばれるのか?
では、J・K・ローリング氏をはじめとしたジェンダー・クリティカル派はなぜ「トランスフォビア」と呼ばれるのか? それを知るためには、まずは「トランスフォビア」という言葉の正しい定義を理解する必要がある。
トランスフォビア/トランスミシアの定義
「トランスフォビア」の定義に関しては、性と生殖に関する医療サービスを提供しているプランド・ペアレントフッドの解説を引用したい。
ちなみにプランド・ペアレントフッドは、医学的に「フォビア=不安障害」を意味するため、「ミシア=嫌悪」を使って「transmisia(トランスミシア)」と呼ぶのが適切であるとしている。ただ、トランスフォビアとトランスミシアは基本的に同じだとしている。
トランスミシア(トランスフォビア)とは...
・トランス、ノンバイナリー、およびジェンダー・ノンコンフォーミングの人々に、ネガティブなステレオタイプを与えたり害を与える態度、信念、行動、または政策
・彼らのアイデンティティの妥当性を否定する態度、信念、行動、または政策
・彼らを人間以下の存在と見なす態度、信念、行動、または政策
・彼らをケアや尊敬に値しない存在として扱う態度、信念、行動、または政策
まず、トランス男性は男性ではない、トランス女性では女性ではないとすること、つまりトランスジェンダーの人々のジェンダー・アイデンティティを認めないことがトランフォビアに該当するとされている。
また、詳しい内容はこの後説明するが、トランスジェンダーの人々に対する誤ったステレオタイプを助長して害を与えているという点もトランスフォビックな行為とされており、ローリング氏らはこの点においてもトランスフォビックだと批判されている。