ジョニー・デップにとって名誉をかけた裁判が幕を閉じる
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどの出演作で知られる俳優のジョニー・デップが、自分のことを元妻で俳優のアンバー・ハードに対して暴力を振るった「Wife Beater(妻を虐待する者)」と呼んだイギリスの大衆紙The Sunを発行するNew Group Newspapers(以下NGN)を名誉毀損で訴えた裁判が、現地時間7月28日に終わりを迎えた。

The Sunは2018年4月に、ジョニーがアンバーにドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)をはたらいたと報じているが、ジョニー側はDVの事実はなく、アンバーがウソをついているとして、The Sunの報道を全面的に否定。一方、NGN側の証人であるアンバーは、当時、アルコールや薬物を乱用して正常な精神状態になかったジョニーから、再三にわたり激しい暴力を振るわれたと主張。“ドロ沼裁判”と言われた離婚裁判に続いて、今回の裁判でも両者とも徹底的に争う姿勢を見せた。
裁判官はこれから評決についての審議に入るが、米Deadlineによると結論が出るまでに数週間はかかる見込みで、判決が下されるのは早くても9月頃になるという。
ジョニー・デップの裁判を時系列で振り返る
7月7日
裁判の冒頭で、ジョニーの弁護団はThe Sunからの損害賠償ではなく、「名誉回復」を求めているとコメント。The Sunがジョニーのことを「Wife Beater(妻を虐待する者)」と呼んだことによって、世間の人たちから誤った理由で非難されているとして、DV加害者のレッテルを貼られたジョニーに果たして本当に非があるのかどうかを今回の裁判ではっきりとさせたいとした。
7月8日
証言台に立ったジョニーは、俳優のウィノナ・ライダーと交際していた時に入れた「Winona Forever」というタトゥーを“お直し”した「Wino Forever」というタトゥーをアンバーに笑われたことに激怒し、彼女のことを殴ったというアンバー側の主張に対し、「ハードさんを殴ったりしていません」と否定。

7月8日、高等法院前に集まった報道陣やファンに向かって手を振るアンバー・ハード。
7月9日
裁判所は、アンバーがジョニーに宛てて書いた未送信のメールに書かれていた、ジョニーの「ジキル博士とハイド氏」のような人格について詳しく追及。その後、このメールは7月27日に行われた最終弁論で全文が読み上げられ、「あなたは私の事を何度も叩いた。それは、絶対にするべきではないことだった。なんて人なの?お酒やドラッグをやらなければ、絶対にそんなことするはずなかったのに」などと書かれていたことが公にされた。
7月10日
過去の裁判でも大きな話題になったが、ジョニーは今回の裁判で改めて自身のベッドに「排泄物」が残されていたことが引き金となり、アンバーとの離婚を決意したことを告白。この排泄物事件にアンバー本人、もしくは彼女の友人が関与していることを「確信している」と述べた。
7月13日
アンバーは2015年12月15日にロサンゼルスにある自宅で口論の末に、ジョニーから頭突きなどの暴行を加えられたと主張しているが、ジョニーは意図的にやったことではないとしてそれを否定。また、当時アンバーと一緒に仕事をしていたスタイリストによって、アンバーがジョニーから暴力を受けたとされる日の翌日にトーク番組に出演したことや、その際、顔や体に傷やアザ等は見受けられなかったことなどが語られた。
7月14日
2015年に新婚旅行で東南アジアを訪れた際に書かれたとされるアンバーの日記が証拠として提示された。そこには、電車の車内でジョニーと“ひどい喧嘩”をしたことや、ジョニーが自分のシャツを使ってアンバーの首を締めようとしたことなどが記されていた。

7月14日、イギリスのロンドンにある高等法院から出てきたジョニー・デップ(左)とアンバー・ハード(右)。
7月15日
ジョニーの元不動産マネージャーのベン・キングが、2015年にオーストラリアでジョニーとアンバーが激しい口論をした後の部屋の状況や、欠損したジョニーの中指を発見した時のことを述懐。ちなみに、アンバーはジョニーがボトルや窓などを割るなどして暴れ、その破片で右手の中指を損傷したと証言しているが、ジョニーはアンバーが投げたウォッカなどのボトルによって負傷したと主張している。
7月16日
裁判で証言する予定がキャンセルになったジョニーの元パートナーのヴァネッサ・パラディと元恋人のウィノナ・ライダーが、代わりに裁判所に声明文を提出。ウィノナはその声明文のなかで、「彼が信じられないほど暴力的な人物であるという考えは、私が知っている、私が愛したジョニーから最も遠いものです。彼が非難を浴びている理由が私には理解できません。彼が私に対して暴力を振るったことはただの一度もありませんでした。同様に彼が私を虐待したことはただの一度もありませんでした。私の知るかぎり、彼は誰に対しても暴力的でも虐待的でもありませんでした」と証言した。

7月16日、高等法院前で集まった大勢のファンに囲まれるジョニー・デップ。
7月17日
ジョニーとの婚姻中に、アンバーがジョニーとは別の複数の男性と関係を持っていたという疑惑についての議論が行われ、元夫妻の自宅マンションのコンシェルジュを務めていたアレハンドロ・ロメロによって、当時、アンバーがテスラ社やスペースX社のCEOとして知られるイーロン・マスクをジョニーと暮らす自宅に連れ込んでいたというエピソードが明かされた。
7月20日
証言台に立ったアンバーが、ジョニーとの婚姻中に何度も命の危険を感じたと告白。「いくつかの出来事は非常に深刻で、故意の時もあれば、コントロールを失って行き過ぎた行為に走ることもあり、いつか彼に殺されるのではないかと不安でしかたがありませんでした。とくに私たちの関係が終わりを迎える頃には、彼は私に対して明確な殺意を見せていました」と、当時を振り返って語った。
7月21日
これまでジョニーに対する暴力行為があったことを一貫して否定してきたアンバーが、2015年の3月、ジョニーの暴力から身を守るために彼を拳で叩いたと認めた。この時、初めてジョニーに手を出したと告白したアンバーは、その理由について、ジョニーが自身の妹のホイットニー・ヘンリケス(旧姓ホイットニー・ハード)を階段から突き落とそうとしたからだと説明している。
7月22日
ジョニーが中指を負傷した2015年のオーストラリアでの大げんかを振り返って、アンバーが「(ジョニーが)30本以上のボトルを、まるで手榴弾や爆弾を投げるかのように、勢いよく私に向かって投げつけてきました」と証言。ボトルを投げて暴れたのは自分ではなく、ジョニーであると強調した。
7月23日
アンバーが2020年に他界した母に「お母さん、彼は狂ってる。暴力的でクレイジー。自分がこんな人を愛してしまったことに傷ついてる」などと、DVについて相談したメールの内容が読み上げられた。

7月23日、高等法院前に集まったファンから花束やプレゼントを受け取ったジョニー・デップ。
7月24日
ジョニーの弁護士が、アンバーが妹のホイットニーに暴力を振るった証拠として、匿名の情報提供者から入手したという動画を公開。その動画には、リアリティ番組の収録中に、ある出演者がホイットニーに向かって「ケンカしたって本当?」「アンバーに負けたなんてびっくり」と語りかける声が入っていた。
7月27日
NGN側の弁護士による最終弁論で、2013年にアンバーがジョニーに宛てて書いたものの、送信はせずに保存しておいたといわれるメールの全文が読み上げられた。また、弁護人はジョニーがアンバーに対する暴力行為を否定していることに対し、“あまりにも酒やドラッグに溺れていたために、アンバーに暴力を振るったことを覚えていないのではないか”と指摘した。
7月28日
ジョニーはアルコールや薬物の使用は認めているものの、アンバーへのDVに関しては強く否定しており、アンバーがDV被害の証拠として提出したアザなどの写真は、彼女が捏造した疑いがあると主張している。その姿勢は最後まで変わらず、裁判最終日のジョニー側の弁護士による最終弁論でも、アンバーが嘘をついているという点が強調された。ジョニーの弁護士は、DVを受けたのは、ジョニーのほうであるという主張を最後まで貫き、「彼女(アンバー)こそが虐待する者であり、デップ氏ではありません。彼は妻を虐待する者ではありません」と高らかに論じた。
ちなみに、最終日に高等法院から出てきたアンバーは、階段の上に立ち集まった群衆に向けてスピーチを行ない、「2016年にジョニーに対する接近禁止令が出され、離婚が成立したあと、私はもうその先の人生へと進みたいと思っていました。今回の裁判を起こしたのは私ではありません。この件はとても重大な問題ですが、私は法廷に立つことは望んでいませんでした。ジョニーとの破局を振り返り、自分の動機や真実を疑われ、ジョニーとの生活で経験した最もトラウマ的で個人的な出来事の数々が法廷やメディアの放送によって世界中に知られることは、信じられないくらい辛いものでした。私は自分の法廷での証言を固持するとともに、イギリスの司法を信じます」などと語った。

7月28日、高等法院前でスピーチを行なうアンバー・ハード。
一方のジョニーは、アンバーのようにスピーチは行なわなかったが、「Justice for Johnny!(ジョニーに正義を!)」と合唱するファンたちの声援に笑顔で応え、差し出された花束やテディベアを受け取り、手を振ったり拳を突き上げたりしながら、高等法院を後にした。

7月28日、ファンからの声援に拳をあげてこたえるジョニー・デップ。
(フロントロウ編集部)